12、侯爵家の一族

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*  一方その頃のふたりはお互いに向かい合っていた。 「大丈夫か? 気分を害していないか? リリア」 「はい、ですが……その」  リリアはおずおずとライザスを見上げる。  ゼロ距離。  彼はぴったりとリリアにくっついて、お互いの鼻先がわずかに触れる。  もちろん彼の手はリリアの背中をがっちり抱いている。 「ち、近すぎます」 「誰もいない」 「そういう問題ではありません。さすがにお客さまがまだいらっしゃるのにこんなこと……」 「あいつらはいつもこんな感じだ。好き勝手に泊まっていく奴もいればさっさと帰る奴もいる。放置しておけばよい」 「ですが……まだこんなに日が高いうちから」  だあんっ、とライザスはリリアの顔の横に手をついた。  そして彼はまるで何かを耐え忍んでいるような顔で鋭い目をリリアに向ける。 「赤を選ぶのではなかった」 「はい? ええっと、私のドレスのことですか?」 「くっ……興奮が抑えられない!」 「もう! 旦那さまったら」  リリアは思いきり両手でライザスの肩を押して引き離そうとするがびくともしない。  そんなとき、ふたりの背後からマリーが冷静に声をかけてきた。 「あのう、いちゃつくなら部屋に入ってやってもらっていいですか?」  ライザスとリリアは同時にマリーを見つめて固まった。 「ここ、廊下なんで」  ふたりは部屋の扉の前で壁ドンしていたのだった。  ライザスはリリアを抱きかかえるとさっさと部屋へ入ってしまった。  リリアの軽い悲鳴が聞こえたが、マリーは聞かなかったことにした。 「ふふっ、どこまでバカップルぶりが見られるか楽しみだわ」  マリーは箒を手に持ち鼻歌まじりにスキップしながら立ち去った。
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