13、拗らせたふたり

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「あらあら、使用人はお掃除が大変ね」 「俺を怒らせたいのか? 出禁にするぞ」 「らしくないわねぇ。動揺するなんて。親戚たちの前であれほど熱く語ったあなたの言葉は偽りだったのかしら?」 「違う。俺は妻を心から愛している。だからこそ、妻をこれ以上愛してはいけないんだ。あなたはいつも言うだろう? 愛に溺れると破滅すると。そのことを俺はこのたびの旅行で実感した。俺は次に戦場へ出たら命を落とすかもしれない。妻に溺れてしまったせいで戦場で実力の半分も出せない愚かな男に成り下がったのだ」  息を荒らげながら熱弁するライザスをじっと見つめていたローズは「あ、そう」と軽く返した。 「なんだその興味なさそうな反応は?」 「そんなことないわよ。ただ、不器用で拗らせた甥をどうしようかなって思ってただけ」 「はっ……?」  ライザスは意味が分からないというような顔で叔母を睨みつける。  ローズは赤い扇を口もとに当ててじっとライザスを見つめた。 「ところであたくし疲れたから客間で休ませてもらうわね」 「泊まる気か」 「しばらく滞在するわ」 「とっとと帰れ」  ローズは扇をひらひらさせながら部屋を出ていった。  ライザスは悶々としながら割れた瓶を見つめる。  そして、リリアの顔を思い浮かべると猛烈な罪悪感がよみがえり、その場にしゃがみ込むと自分で割れた破片を片づけ始めた。
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