1031人が本棚に入れています
本棚に追加
「最後に君を抱きしめてもいいか?」
「はい、旦那さま」
ライザスとリリアが抱き合うと、神官は目をそらし、魔導士は咳払いをした。
「ええっと、そろそろよろしいですかな?」
魔導士に声をかけられて、リリアとライザスは名残惜しそうに離れる。
まるで永遠の別れのような空気がふたりのあいだに広がるが、周囲はほとんど真顔、そして無言だ。
「では奥さま、魔力を開放してください」
「はい」
リリアは以前と同じように目を閉じて魔力の解放に集中する。
今度は余計なことを考えないよう訓練をしておいた。
まばゆい光に包まれて、リリアはライザスの両手を握る。
ライザスは終始リリアを見つめていた。
やがて光が一点に集まり、魔導士が手に持つ特殊な紙に文字が印字された。
光が消えると、魔導士は紙を見てゆっくりと告げる。
「侯爵閣下に付与されたスキルは……」
周囲が固唾を呑む。
リリアは少しうつむいて新しいスキルを受け入れる覚悟をした。
ライザスは険しい表情をしている。
魔導士がもったいぶりながら読み上げた。
「【慈愛】です」
その瞬間、空気が凍りついたように固まった。
最初のコメントを投稿しよう!