1031人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺はあなたと出会ってこのスキルを身につけなければ、きっと永遠に大事なものを知る機会はなかっただろう」
「大事なものですか」
「ああ。俺は今まで周囲に厳しい目を向け、細かく監視をすることで威厳を保っていたように思える。だが、俺が好き勝手に動けるのは周囲の支えがあったからこそだ」
「旦那さま……」
彼がそのような行動をしていたのは侯爵家の当主という重責を背負っていたからだ。
両親を亡くし、まわりは敵ばかり。
そうなると常に強い存在であり続け、周囲に舐められないようにしなければならない。
リリアも母が生きている頃は天真爛漫な娘だったが、伯爵家に引き取られて散々嫌がらせをされるようになってからは自分を強く見せるために決して弱々しい態度を兄たちに見せず毅然としていた。
そうしなければ心が壊れてしまうから。
状況は違っても、リリアにはライザスの心境が理解できた。
「俺に今まで足りなかったのは、まわりへの感謝の気持ちだったのだな。あなたが気づかせてくれた。ありがとう」
「いいえ。それは旦那さまが本来持っている心なのです」
「え……?」
リリアはスキルの付与が本人の素質によるものであると理解している。
本人は気づいていないが、彼は慈悲深い心を持っているはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!