993人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
リリアはライザスの顔を見ると少し驚いた表情で訊ねた。
「旦那さま、頬が腫れていらっしゃるようですが、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。これは少々、自分を律するためにな。問題ない」
まさか煩悩を消すために自分で殴ったとは言えないので誤魔化した。
リリアは不思議そうな顔をしていたが、それ以上突っ込んで訊いてはこなかった。
リリアが自分の席に着くとき、さらりと髪が前に垂れた。
それを彼女は指先で耳の後ろにかき上げる。
その仕草にライザスはどきりとして頬が熱くなった。
鼓動が高鳴り、手が震える。
料理が運ばれてきてフォークとナイフを手にしたが、汗で手のひらがじっとりしていて滑りそうになった。
ライザスは食事を始めたリリアをじーっと見つめた。
彼女がフォークで料理を口に運ぶ仕草を見ると、目が離せなくなるのだ。
「旦那さま、本日は焼き加減を慎重に調整いたしました。いかがでしょうか?」
料理長に声をかけられたライザスは慌てて答える。
「ああ。ちょうどいい。俺はこれくらいが好きだ」
「ありがたきお言葉感謝いたします。今後も精進してまいります」
料理長が丁寧に返事をした。
ライザスがふたたびリリアに目線を戻すと、彼女はにこにこしていた。
それを目にした彼はどくんっと鼓動が大きく跳ね上がった。
そのせいで、うっかりフォークを落としてしまった。
(しまった。今までこんな失態を仕出かしたことはなかったのに)
最初のコメントを投稿しよう!