5、スキル【溺愛】を身につけた夫の苦悩

12/15

993人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
 そばに控えていた使用人が慌てて床に落ちたフォークを拾う。 「すぐに新しいものをお持ちいたします」 「ああ、そうしてくれ」  ライザスはあくまで冷静にそう言った。  リリアが少し驚いた顔をしているので、ライザスは焦った。 (もしやマナーがなっていないと思われたのだろうか。フォークを落とすなど幼少期以来の失態だ。こんな無様な姿を彼女に見せてしまうとは……恥を知れ、俺!)  肉料理のあとにデザートが運ばれてきた。  今日はホイップクリームが添えられたチョコレートケーキだ。  ライザスはその日の気分でデザートを食べるか決める。とは言え、ほとんど口にすることはない。  今日はリリアがデザートを食べているところを見ていたかったので、席を立たなかった。  料理長が気づいて声をかけてくる。 「旦那さま、デザートをお持ちいたしましょうか?」 「いや、いい。少し酒を飲んでから戻ることにするから俺にかまわなくていい」 「かしこまりました」  料理長は深く頭を下げた。  ライザスはワイングラスを口につけながら、やはり目線はリリアにあった。  リリアはチョコレートケーキを黙って食べている。  その際、彼女がフォークについたホイップクリームを少し舐める仕草をして、ライザスは熱い衝動が抑えられなくなった。 (まずい、まずいまずいまずい! あらぬことを考えてしまう。もうこれ以上は見ていられない)
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

993人が本棚に入れています
本棚に追加