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今まですれ違っても声をかけてくれなかった夫が深夜に妻の部屋を訪れた。
夜も眠れないほどお怒りなのであれば、この機会にとことん話し合うべきだとリリアは思った。
そう覚悟したものの、ライザスはやはり真顔で無言のままだ。
リリアはどうすべきか迷い、とりあえずソファへと促す。
「お座りになりますか?」
「いや、いい」
「えっ……」
一体どうしたいのだろうか。
ライザスの意図がわからずリリアは困惑する。
窓から差し込む月明かりが彼の表情を照らした。
そこにはやや憂い色が浮かんでいる。
ふわっとアルコールの匂いが鼻をつく。
それによく見たらライザスはほんのり頬が赤く染まっている。
「酔っていらっしゃいますか?」
「酔ってはいない」
きっぱりとそう言うライザスを見てリリアは少々呆れた。
「旦那さま、一体どうされたのですか? このような深夜に私の部屋へいらっしゃるなんて」
「夫が妻の部屋を訪れて何か問題でも?」
問題はない。まったく問題などない。
むしろ、夫婦なのだからそうあるべきだ。
しかし、この結婚は形だけのもの。
最初にライザス本人からそう言われたはずだ。
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