8、スキル【溺愛】が絶好調な夫の苦悩

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 一方その頃ライザスは苦悩していた。  実は彼は相当無理をしてリリアに素っ気なく接していたのだった。  理由はふたつある。  まず、他人の前で妻にデレる姿を絶対に見せたくないというプライドだ。  ライザスは常日頃から自分にも他人にも厳しくあることを心がけていた。  きりっとした表情を崩さず、相手に舐められず、常に凛とした姿勢を崩さない。  それがライザス・ゲルトという男だ。  ところが今はリリアのことを考えるだけで顔がにやけてしまうのだ。  たとえばこんなふうに自室の鏡の前でにやにやしてしまう。  ライザスは鏡の向こうの自分の顔を見てげんなりした。 (どうしたんだ、俺。もうだめだ。完全に俺じゃない)  そして、もうひとつの理由はリリアの顔をまともに直視すると動悸息切れが激しく倒れそうになってしまうからだ。  これまで戦場で数多の血飛沫を目にして自身も命にかかわるほどの重傷を負ったことがあるにもかかわらず、屈強の精神力と体力で乗り越えてきた。  ところが、今はたったひとりの女の顔を見ただけで心臓が止まってしまいそうなのだ。  リリアには悪いと思っているが、このまま遠征に行くつもりだ。  離れれば忘れられる。  そして戻ってきたときにはスキルの書き換えで元通りだ。
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