2、虐げられてきた実家を出る日

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「結婚相手は(いくさ)にしか興味のない冷酷無慈悲なゲルト侯爵だもの。きっと花嫁がどんなにみすぼらしい姿でも見向きしないはずよ」 「そうよね。リリアお姉さまは一生殿方の愛を知らずに生きていくのね。ああ、可哀想だわ」 「あのお方は使用人だけでなく、親族にも冷たいお方だと聞くわよ。無事でいられるといいわね」 「やぁだ、リリアお姉さまが怖がってるわよ」  妹たちはリリアを見て嘲笑する。  リリアは黙ったまま風魔法で自分のまわりの濡れたものをすべて乾かした。    兄はちっと舌打ちする。  なぜなら兄は唯一、風魔法が使えないからだ。  兄は負け惜しみのようにリリアに言い放つ。 「お前も魔鉱石の恩恵が受けられればよかったのにな。だが、もう必要ないか」  最近、マクベス伯爵領の辺境で魔鉱石が大量に発掘されたのだ。  ただでさえ稀少価値のあるものでなかなか手に入らなかったが、これからはすべて自分のものになると父である伯爵が自慢していた。  当然、その恩恵をリリアが受けることはない。  兄はそれを知っていて、負け惜しみでわざとその話を持ち出したのだ。
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