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許さない ②
「エマ、少し痛いけど我慢してね」
サラにぶたれ腫れてしまった頬に、冷たい水で冷やしたタオルをあてる。
エマは一瞬、痛みで体をビクリとさせたが、
「ありがとうございます」
と礼を言うと、僕のなされるがままとなった。
「どんな辛い時でも、エマは僕のそばにいてくれて、僕を守ってくれて、ありがとう。エマは僕にとって、本当の姉様みたいだよ」
桶に入った水にタオルを浸して絞りながら言うと、
「滅相もございません」
そう言いながら、エマは涙目になっていた。
「二人の時は、エマの事『姉様』って呼んでいい?」
エマは僕の言葉に目を丸くしたけれど、すぐに
「私にこんなに可愛い弟ができるなんて、思いもよりませんでした」
と嬉しそうに微笑んだ。
「ではレオナルド様の姉になったと言うことで、一つお聞きしてもいいですか?」
「エマの弟になったんだから、僕のことは『レオ』って呼んで。それにそんな堅苦しい言葉使いもなし。ね」
「じゃあレオ。一つ聞いてもいい?」
エマに『レオ』と呼ばれて、エマとの距離がぐんと近くなった気がした。
「なに?」
「どうしてサイモン様に本当のことを言わずに、宮殿に残ったの?」
「え?」
「何もないのに、レオがここに残ってルーカス様の妃になるなんて考えられない。一体何があったの?」
エマには何もかも見透かされているような気がした。
それでも僕の口から真実は言えない。
もし知ってしまって、エマが何かに巻き込まれてしまったら、僕は自分が許せない。
「何も、ないよ」
エマに嘘をついた。
それはサイモンに嘘をついていた時に感じていた、申し訳なさが込み上げてくる。
「じゃあ、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているの?」
エマは両手で僕の頬を包み込む。
「言ったら姉様に迷惑がかかる……」
「あら、そんなことを考えていたの?弟っていうのはね、姉さんに迷惑をかけるものなのよ」
「……」
「レオの苦しい気持ち、姉さんに教えて」
姉様に抱きしめられた。そこは暖かくて優しくて……。
なんでも包み込んでくれそうだった。
こんな出来損ないの僕でも、許してくれそうだった。
「あのね……」
とうとう僕は話してしまった。
僕がミカのフリをしてサイモンと結婚した事。みんなを騙していたこと。
サイモンは僕がミカではないと知りながら、殿下に僕をミカと紹介し、それをルーカス様が気づいたこと。そして、僕がルーカス様と交わした約束のこと……。
「あの時はルーカス様も、僕の行動で怒ってられたけれど、ちゃんと話したら許してくれて、今では本当に良くしてくださってる。だから僕は、ルーカス様が本当のお妃様とご結婚されるまで、おそばにいたいと思っているんです」
僕を助けくださったルーカス様のお役にたちたい。
「サイモンには僕と結婚してしまったという汚点を残してしまったことが、悔やまれて。だからサイモンには本当に幸せになってほしい」
素敵な人と出逢い、家族を持ち、オリバー家を守っていってほしい。
「話してくれて、ありがとう」
何度も何度も姉様は僕の頭を撫でてくれた。
「これからは一人で抱え込まず、姉さんと一緒に乗り越えていきましょう」
姉様は、また僕の心を助けてくれた。
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