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日記と手紙 ①
ルーカス様との婚礼の儀式の準備は、職人たちが寝る間も惜しむかのように迅速に進められた。
各分野の専門家たちが知識を出し合い、式に必要なものを揃え、組み立てる。
帝国一のお針子と宮殿内の優秀なお針子総出で、ルーカス様と僕の式での衣装を縫ってくれている。
今日はドレスの最終確認の日。
「レオナルド様、今日もお綺麗です」
鏡に映る僕の姿を、エマがうっとりと見つめる。
「エマが毎日、髪や体の手入れをしてくれているからだよ」
僕がそういうと、
「エマさんだけずるいです。私もレオナルド様のお手入れしたいです」
「私も」
「私も」
部屋にいた侍女やお針子が言う。
「ダメよ!レオナルド様専属の侍女は私だけですからね」
「え~いいな~」
エマを羨む声が上がった。
「エマには本当にお世話になっています。これからもよろしくね」
「はい!」
元気にエマが返事をした。
僕がルーカス様の求婚を受け入れた時から、僕の周りはとても平和だ。
エマにルーカス様と結婚すると報告した時は、少し悲しそうな顔をしたけれど、すぐに「おめでとうございます」と祝福してくれた。
でも僕はまだサイモンのことが大好きで、愛している。
こんな気持ちのままルーカス様と結婚するのは、いけないことだと思っている。それでも僕は僕のことを助けてくれたルーカス様の力になりたかった。
ートントントンー
部屋のドアがノックされる。
「少しお待ちください」
婚礼のドレスを脱ぎ、いつもの服に着替えてから、
「どうぞ」
返事をするとルーカス様が入って来られた。
「婚礼のドレスの仕上がりはどうだ?」
「皆さんよくしてくださって、完璧に仕上がっています」
「それはよかった」
ルーカス様が僕を抱き寄せた。
ルーカス様は婚約発表をしてから、僕を抱き寄せたりはするようになったが、キスやそれ以上のことはしてこない。
僕に触れる時も、大切に大切に触れてくださる。
こんなに大事にされているのに、僕が愛しているのはサイモン。
そんな自分がズルい人間に感じていた。
「今日はレオに会いたいという人が、来ている。ここに呼んでもいいか?」
誰だろう?
そんなことを考えながら頷くと、宮殿には似つかわしくない平民の服を着、帽子を深く被った人が入ってきた。
帽子があって顔がよく見えない。
見えないけれど、僕にはわかる。
この人は……彼は……。
「サイ、モン……?」
「お久しぶりです、レオナルド様」
そこにいるのは確かにサイモン。でも服装も話し方も別人のようだ。
「その格好に話し方。どうしちゃったの?」
「私は爵位を捨てて、平民になりました」
「え?伯爵の爵位を捨てて平民に?どうしてそんなことを?」
「実は私は我が家の元使用人のエマと、手紙のやり取りをしていました。その手紙のやり取りの中で、私のこれからの人生、私が生きたいと思う生き方に爵位は必要なかったのです」
必要なかった?それはどういうことだろう?
「レオナルド様、私は全て知っています」
全て知っている?
サイモンとエマが文通をしていたということは、僕が話したことをエマがサイモンに手紙で教えたのかもしれない。
ちらりとエマの方を見ると、エマは『大丈夫ですよ』というように、僕の目を見て頷いた。
「で、サイモン。どうしてもレオに渡したいものとはなんだ」
僕とサイモンに話をさせたくないように、少し苛立ったルーカス様が話に割って入る。
「前置きが長くなってしまって、申し訳ございません。実はこれでございます」
サイモンが差し出した物は、鍵のついた革張り本だった。
「これはカトラレル家から届けられたミカエル様の日記です。本当は鍵がかかっていて開けることはできないのですが、鍵職人に依頼して鍵を開けてもらうことができました」
「……」
僕が差し出されたミカの日記を受け取る。
「今のレオナルド様に読んでいただきたくて、お持ちしました」
日記帳はずっしりと重い。
兄弟とはいえ、自分以外の日記。本当に読んでいいんだろうか?
サイモンの方を見る。
「きっとミカエル様はレオナルド様に読んで欲しいと思っておられると思います」
サイモンがそこまでいうなら……。
ゆっくりと表紙を捲ると、そこにはミカの丁寧で綺麗な字がびっしりかかれていた。
そして読み始めると、そこにはミカが僕に話しかけるように書いてあった。
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