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日記と手紙 ③
『ルーカスへ』
何通も手紙をくれていたのに随分長い間、返事を出していなくて、ごめん。
こんなに長い間、手紙のやり取りをしていなかったのは、初めてだね。
本当はもっと早くに返事を書きたかったんだけど、なんて書いたらいいかわからなくて……。
僕、もうすぐオリバー家の次期城主、サイモンと結婚するって言っただろ?
サイモンはかっこよくて、優しくて、乗馬や剣術もうまくて色々なことを知って、ルーカスみたいに口は悪くなくて、とっても丁寧なんだ。
だからサイモンはレオナルドと僕の、小さい頃からの憧れの人。
そんな憧れの人と結婚できるなんて、僕は本当に幸せだと思った。
だから親友のルーカスに結婚のことを教えたのに、返事は
ー俺にはオリバーのどこがいいかわからないー
だけだっただろ?
前から知ってはいたけど、ルーカスはなんて失礼なやつなんだ!お子様なんだ!って思ったよ。
もうルーカスなんて知らない!って、もう親友なんかじゃない!って。
親友じゃなくなったから返事を書かなかったのに、ルーカスから
ーごめんー
って書かれた手紙が届いて、これで仲直りできるかもって嬉しかったんだ。
僕だって本当はルーカスとの手紙のやりとり、すごく楽しかったし、毎日ルーカスからの手紙が届くのをずっと部屋の窓から見ていたんだ。
ルーカスのことを考えるとドキドキするし、手紙を書いている時はワクワクするし、今すぐに会いたくなる。
ルーカスに返事を書かなくなって気がついたんだ。
サイモンのことはレオナルドと同じ、素敵なお兄さんみたいで大好きだけど、僕はルーカスのことは、お兄ちゃんじゃなくてもっと違う大好きなんだって。
僕がずっと一緒にいたいのはルーカスだって。
だからね、僕、父様にサイモンとの結婚は辞めたいっていおうと思うんだ。
本当はルーカスと結婚したいけど、ルーカスは帝国の第二王子、僕みたいな人間とは結婚できない。
だったらこうして、ずっと文通をしていたいんだ。
ねぇルーカス。
また帝都の感謝祭の話教えてよ。
僕は春になったら珍しい花でしおりを作るよ。
今はまだ行けないけど、元気になったらルーカスに会いに行くね。
ルーカス、こんな僕だけど、これからもよろしくね。
大好きだよルーカス。
ーミカエルよりー
ルーカス様へのミカの気持ちが溢れていて、ミカの字が歪んでいるからか、僕の涙で字が歪んで見えるのかわからない。
ルーカス様への手紙の後に、こう綴られていた。
最愛なるレオナルド兄さん。
もし僕がこのままいなくなってしまっても、僕はずっとレオのそばにいるよ。
大好きだよレオ。
絶対絶対、サイモンと幸せになってね。
サイモン、レオと幸せになって。
きっとミカは高熱でうなされながらも力を振り絞り、この日記を書いてくれていたのだと思う。
ミカはすぐに駄々をこねるけれど、本当はすごく優しくて僕のことが大好きだって一番知っていたはずなのに、どうしてこの日記を読むまで、忘れていったんだろう?気がつかなかったんだろう?
ミカが最後に僕にお別れを言いにきてくれてた時、どうしてもっとミカのことが大好きだと言ってあげられなかったんだろう?
ねぇミカ。
僕はもっとミカと話がしたい。
もっと色々なところに行きたい。
ルーカス様に会わせてあげたい。
「ルーカス様はこの手紙を読まれても、まだレオナルド様にと結婚するお気持ちは変わらないですか?ミカエル様にレオナルド様との結婚を報告できますか?」
俯き肩を振るわせるルーカス様に、サイモンが問いかける。
「……できない……。やっぱり俺が愛しているのはミカエルだ」
ミカからの手紙を手渡すと、ルーカス様は手紙を大切そうに胸にぎゅっと当てていた。
「俺はどこかでレオナルドとミカエルを重ねていたのかもしれない。でもこの手紙で目が覚めた。俺はお前と結婚すべきではない。レオナルド、今ここで婚約は破棄する。お前は何も悪くない。悪いのは全部俺だ。本当に申し訳ない」
ルーカス様が頭を下げられた。
「そんな!頭を上げてください」
慌てて僕がルーカス様に言うと、
「今日から俺に縛られることなく生きていけ。あとのことは俺がなんとかする」
ルーカス様は力強く言った。
「レオナルド、ミカエルの願い通りサイモンと幸せになれ」
そう言ってくださったルーカス様の笑みは、とても優しかった。
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