第十羽、そして二人になった

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第十羽、そして二人になった

 抜けていたのだよ。うむっ!  姿が見えない。それが、だ。  一体、なんの話なのか。むむ。読者諸氏のおいてけぼり感が半端ないのは分かる。  分かるが、一旦、私が、勇猛果敢にも闇に飛びかかったところから時を進めよう。  ヤミにかかるよ。きをつけてね。しょうじ。という地蔵の、あの一言が脳内に鮮やかに蘇ってた時、勇気凜々な私は優美で勇敏な勇者だった。そんな私が飛びかかった先には、残念なのか、或いは、それこそ予定調和だと言うべきなのか……、  スカッと空振りな凜々勇気の印だったんだわよ。  うむっ!  ソイツは、幽霊だとか、四次元人だとかいったものじゃなかった。全然、全くね。  そうじゃなくてオチは例によって例の悪戯だったわけだ。章二の。うむっだわよ。  ただし。  件の悪戯は必要なものでソレがなければ、それこそ章二の母親の話、そのままだ。  ククク。  言ってる事の意味が分からないって。諸君。世の中は、そんなに甘くないのだよ。  一つ語り忘れた事を誤魔化したいのだよ。私こと長縄蜜柑はね。そんなわけで今回のブルーバードの導入は煙に巻くような語り口調で語っている。まあ、それも、これも、あれも、あっちも、そっちも、どっちも、って、くどいとか言われそうな、  それも。  なにもかもが、悪戯なのだよ。色んな意味でね。  うむっ。  はふぅ。  などと語ってみても、虚しい。空虚だわよ。ストーリーテラーとしては、どうよ?  なんて自分で自分のスペックに悲しくなるわよ。  そそっ。  ソイツの姿は見えなかった。闇に隠れ、私は、ソイツの姿を確認していなかった。  声だけが聞こえてきていたわけだ。それを語り忘れた。いや、敢えてで言おうか。  敢えて語らなかったのだ。フハハ。って虚しい。  トホホ。  まだまだ、だね。なんて声が聞こえてきそうだ。  兎に角。  ようやくで結論を言えばさ。優麗な幽霊は、章二の悪戯の産物であったのだわよ。  つまり、  平たく言うと、偽西条寺さんは、阿呆の特技、腹話術で作られた虚像だった。もちろん、今の章二は寒さで歯の根が合わない時があるから人参と大根のミキシングボイスだったわけだ。加えて、あの迫力というか、圧倒的な説得力の源は……、  寒すぎて、もう帰りたいという章二の切実な訴えからくる言葉の力だったわけだ。  うむっ! それが章二の母親の話と繋がるのだ。  覚えてるかな。章二の父親が適当すぎて母親の異変に気づくのが遅れた。そして病院に連れて行った時は手遅れだったという話だよ。つまり、阿呆も、いや、阿呆なのに風邪をひいていたのだよ。馬鹿は風邪をひかないと都市伝説があるのにね。  無論、手遅れになる前に自分で手を打ったけど。  章二は。  でも気づいてあげられなくて不甲斐ないと思う。 「寒いな。本気で。やっぱり、これは風邪だな? ミカン。なあ、もう帰ろうぜ?」 「やぁよ」 「そう言うなよ。ミカン。多分、雪も降ってくるぞ。もう帰ってキュッとやろうぜ」 「てか、英輝が戻ってくるんでしょ。だったら、少なくとも英輝が来るまでは、ココに居るわよ。じゃないと英輝が可哀想じゃん。戻ってきたら誰もいないなんてさ」 「そう言うなよ。ミカン。あんな堅物なんか放っておいてさ。なあなあ、帰ろうぜ」  てか、甘えるなんて珍しいな。甘えるな。阿呆。  てかさ。  てかさ。  マジ、恐かったんだから。闇で姿が見えないのに怪しい声が聞こえてくるってね。  無論、ソコには、誰もいなくて章二の腹話術で作られた虚像が在っただけで。それでも勇気を振り絞って突っ込んだんだから。闇にさ。章二、あんたは、偽西条寺さんに騙されてるの、私が目を覚ましてあげるってさ。それを分かって甘えてる?  章二は私の心など読まず、答えずに、勝手に話を進める。クソう。 「本当に寒すぎんだよ。ゾクゾクする。バファリン、持ってねぇ?」  ミカン。  と章二は、相変わらず二の腕を掴み、ぶるぶると可愛い子犬のように震えている。 「いや、バファリンは頭痛だよ。頭、痛いの? 持ってない事はないけどさ。風邪にはベンザブロックでしょ。早めのベンザブロックってCMでもやってたじゃない」  章二は舌を出して口の前で右手のひらを開き上に向けて吐き真似。 「その発言、悪意しか感じねぇぞ。パブロンだろ。早めのパブロン」 「まあ、そうとも言うかな。あんたには騙されて、余計な心配をさせられたからね」  真面目に焦って心配した気持ちを返して欲しいんだわよ。章二よ。  うむっ! 「まあ、悪かったよ。それは。でもな。俺だって、お前が心配だったから一芝居打ったんだよ。お前が帰るって言わないからな。帰るって言わせる為によ。OK?」  怖がらせてまでさ。だから帰ろうぜ。ミカンッ!  オーケー、オーケー、分かったわよ。理解した。  まあ、でも私は帰るつもりはない。けど、章二は、ここで離脱だ。家に帰ってベンザブロック〔という名のパブロン〕でも飲んで、とっとと温かい布団で寝な。汗かいて、どっかんと寝れば風邪も吹っ飛ぶわよ。気付けとかいって酒飲むなよ? 「てかさ。酒飲むなよ? よい子のみんなは蜜柑姉ちゃんとの約束だぞ。うむっ!」 「まあ、酒〔という名のパブロン〕は飲むけどな」  飽くまでもパブロンだからな? パブロンだぜ?  ククク。 「章二。この野郎。さては?」 「たんまたんま。ミカン。これ以上は、ふざけられねぇよ。今のミカンのテンションに付き合うのも一杯一杯だったんだからよ。本当に勘弁してくれ。頼むからよ」  ゴホンといえば龍角散と言わぬがばかりの咳さえも出始める章二。 「そっか。ごめん。了解だわよ。じゃ、とっとと帰って寝な。章二」  うむっ! 「でも、本当に、お前は、まだ帰らないのか? 俺としては、お前を残して家に帰るって選択肢は最悪の場合に限るんだがな。もう一度、聞くぞ。帰らないのか?」  ミカン。 「うん。帰らない。少なくとも英輝が、ここに戻ってくるまではね」 「そっか」  なんて肩を落とした章二が印象的だったが、私の決意は固かった。  兎に角。  英輝が、ここに戻ってくる事が分かったから少なくとも英輝が帰ってくるまではココに居たい。ただ、謙一と一緒というのが、少々、恐い。だって近衛七斤衆が舞い戻ってくるからだ。まず間違いなくね。うむっ。私じゃ、絶対に相手にならない。  悲しいけど、それこそが現実だ。間違いないぞ。 「まあ、謙一の事は気にすんな。俺の、今日、ラストの任務だ。謙一を連れて行く」  そっか。  でも、風邪をひいて調子が悪い章二に、こんな事を頼むのは気がひける。大丈夫?  なんて申し訳なくなり、項垂れて黙っていると。 「気にすんな。ミカン。俺の自業自得だからな。水なんか、お前にかけて、池に落ちてりゃ世話ねぇよな。アレが原因なんだからよ。ソレくらいはこなしておくぜ?」  そっか。  ごめん。  でも、まあ、これで謙一がいる不安からは解放された。一応、章二にお礼だわよ。  そっそ。  偽西条さんが言っていた英輝の母親が事故ったという話はガセだというヤツ。どうやら本当の話だったらしい。ただ、近衛七斤衆から、それを明かされたわけじゃなくて、あっちで、ぐるぐる巻きになっているホッカイロ魔人が吐いたらしい。  私が、つかの間、お花を摘んでいる間に章二が謙一に吐かせたとの事だ。うむっ!  だからかとか思った。だから地蔵は英輝の母親が事故にあったと聞いても動じずに微笑んでいたんだと。自分の一言〔ゆみがとんでくるよ。もう少ししたら。驚かないで〕が現実になっても、にこやかに微笑んでいたんだと、そう思った。うむっ! 「ミカン。お前が、お花を摘んでいる、とか、まさにギャグだな。ギャグ。フハハ」  なんて、帰る準備をしていた章二が心を読んで茶々を入れてくる。  謙一は、ぐるぐる巻きのまま、章二が、おんぶしている。重っとか言ってるけど。 「うっさい。まだ居たのか、章二。さっさと帰って、とっとと寝ろ」  うむっ!  まあ、とにかくだ。私が居ない間に英輝の母親が無事だという事を知った章二は、それを私に伝える事もなく隠していたらしい。しかしながら自分が風邪をひいている事を悟ったあと私も一緒に連れて帰る為に、そのカードを切ったというわけだ。  やつの切り札をね。うむっ!  隠していた事に、どんな意味があったのか? それは分からない。  分からないけど、兎に角、私をここから離脱させる為の渾身の一撃だったわけだ。  でも、私には利かなったがな。章二よ。フハハ。  でも、正直、恐かったけど。思わず、ちびってしまいそうで帰りたくなったけど。  うむっ!  そして、  ヤミにかかるよ。きをつけてね。しょうじ、の意味も分かった。私は、こう思う。  病みに罹るよ。気を付けてね。章二、だと、だ。  病みとは風邪。つまり、風邪をひくよ。気を付けてね。章二と言いたかったんだ。  地蔵は。  だから、  ヤミにかかるよの場合、自分が言った一言が現実になると思った時、地蔵は申し訳なくなって、ごめんね、章二ってさ。もちろん、池に落ちたのは章二の自業自得だから地蔵に落ち度はない。それでも悪いなぁ、と思う地蔵は優しいんだと思う。  ふわっ。  章二と謙一が、ここから消え去ったあと、フッと私の鼻頭に冷たいものが触れる。  うひゃ。  冷たっ。  風花じゃない。雪だ。雪ッ!  降る降るとは思ってたけど、まさか本当に降ってくるとは。寒いはずだ。章二じゃないけど雪まで降ってくるほどの寒さだったんだね。私は、早く、来ないかな? 英輝とか考えつつも、でも、結局、埋蔵金って、一体、何だったんだって思った。  そんな私を見つめ地蔵は、また笑む。穏やかに。  ふふふ。  と……。
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