第十二羽、そして日常へ

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第十二羽、そして日常へ

「ミカン。大丈夫か。怪我とかはしてないか。章二からミカンと地蔵を鍋敷き山において帰ってきたなんて聞いた時は肝が冷えたよ。まあ、一喝しておいたがな」  デッカい懐中電灯のスポットとも言える光の恵みを浴びて暗闇から解放される私。  英輝だ。  うむっ!  英輝よ。大丈夫だわよ。  ……地蔵のおかげでね。 「なんというか、女の子と……、あれ? 地蔵だって」  英輝よ。  私は、元気満々だ。だから、そんなにも強い力で両肩を掴んで揺らさないでくれ。  脳がシェイクされて口からリバースしそうだからさ。  うむっ! 「うむむ。地蔵って誰だ? 確か、しゃべらないがトレードマークな……、いや、そんなヤツがいるか? みんな、しゃべりたいからSNSが流行る昨今なのに」  うむっ!  それ以上は考えるな。英輝よ。はずかしいめにあうよ、だからね。私がだけども。  兎に角、地蔵との、あの会話〔?〕を終えたあと、地蔵はココから消えた。降っていた雪が、徐々に止んできたのに合わせて闇の中に溶けてしまった。自分の役割は終わったのだと、元いた世界へと還っていったのだ。こことは違う世界線のソコへ。  うむっ!  そうだ。  まさに、  この世の終わりの日から来たタイムトラベラーに、明日、世界は終わりますと言われ、でも、それは同時に新しい世界の始まりなのです、と、再び、翻されたかのようにね。というか、世界が終わる事なんて自分が死なない限り来ないんだけどね。  フフフ。  埋蔵金発掘チームに、O君が居たら、なんて考えた。  無論、それは別の世界線での話。でも大騒ぎだろうね。地蔵は、幽霊なのか、或いは、パラレルワールドの住人なのか、はたまた、神さまか何かの生まれ変わりなのかとさ。その真偽のほどは、このお話を聞いてくれてる各人にお任せするわよ。  まあ、英輝が地蔵を忘れているから、O君も、忘れてしまってなのかもだけども。  それでも慌てふためくO君の顔を想像すると面白い。  うふふ。  うむっ!  それにしても、これでハッキリした。謙一も、やはり一年B組の一員なんだって。  英輝の母親が事故にあってという話がガセで、英輝がココに戻ってくると聞いた。  信じてなかったわけじゃない。だからココに残ったんだ。でも、どうしても英輝がココに戻ってくるまで納得できなかった。確証を得るまではね。もしかしたら謙一はカネに目がくらんでしまって本当に英輝の母親を害してなんて事まで考えてさ。  心配になった。疑ってしまってた。ごめん、だわよ。  謙一よ。  それでも、本当にココに英輝が戻ってきて、ものっそ嬉しくなった。めっちゃね。  私はもうココに居ない地蔵を求めて墨を塗り込んだ深淵と言える夜空を見つめる。  もう、ソコには、がしゃどくろは居なくてさ。代わりに、微笑む、あの菩薩がさ。  雪が、地蔵の気持ちを代弁して喜びに打ち震え舞う。  ふふふ。  ありがとうね、本当に。地蔵。と私も微笑み返した。 「そうだ。ミカン。埋蔵金はどうなった? 君は、最悪でも埋蔵金への手がかりを見つける為に、一人、ココに残ったんだろ? 章二から、そう聞いているが?」  一人ね。  まあ、そうしておきたかったのだろう。あの御仁は。  てかさ。  章二って本当に英輝が嫌いだよね。お互い、隠れてリスペクトし合ってるのにさ。  うむっ!  章二は、  私が英輝の心配をしていると知られたくなかったんだ。だから、そうやって誤魔化しておいたのか。まあ、でも、それは私にとって余計な、お節介だわよ。なにせ、はずかしいめにあうよ、だからね。もう、埋蔵金の事は忘れてくれと言いたいから。  私は風で舞い上がる雪の中、敢えて冷たい笑顔を張り付かせて真面目な顔で問う。 「英輝。残念なお知らせがあるの。今、ココで話してもいい? 本当に残念なだよ」 「なんだい。ミカン。聞きたい。ただ、この流れから考えると、埋蔵金は無い、とミカンが結論づけたとしか聞こえないんだが。違うかな。多分だが、そう思うぞ」  ククク。  お笑いだ、だ。さすが英輝。その理解力。話が早い。 「うん。そうとしか思えないの。少なくとも私はね。もちろん、轟建設の皆さんが調べたっていう民間伝承や昔話が云々というヤツも、ねつ造の可能性が出てきたの」 「なんで、そう思うんだい? ミカン?」  一歩踏み込んできて身を乗り出す英輝。  明確なるエビデンスを提示して頂きたい、なんて言い出しそうなイキオイだわよ。  こ、恐い。その勢い。家畜に勢いだわ。  破竹の勢いじゃなくてね。敢えてでさ。  というか、エビデンスは医療や学術の用語で、この場合、正確には誤用だけど、英輝の事だから、それこそ分かってやってる気はする。ともかく目に見える形で証拠というか論拠を示さないと、首を絞められるわよ。ギリギリなんて音を立てて。  と、たじろぎながら、思わず苦々しくなり、私はジャージのポケットをまさぐる。  と。手に当たるソレ。なんだ? これ?  いつの間に、ポケットに入っていたの?  これは?  ゆっくりと取り出してみる。英輝から向けられている光のシャワーの元へと晒す。  鍵だ。でも、なんの鍵だ? 意味が分からん。正直な。……うむっ!  まあ、でも、コレでなんとかするしかない。苦し紛れになるかもだけど。頑張る。 「これよ」  と私だ。  鍵を魅せる。英輝に。ゆっくり静かに。  そして、そこれこそ敢えてで優美な所作で右手を顔の前でひらひらと左から右へ。  そのあと右人差し指をビシッと立てる。 「これを見つけたのよ。そこの池でさ。で、池から女神さまが出てきてさ。貴方が拾ったのは、この銀の鍵ですか? それとも、こちらの金の鍵ですか? なんて」  タハハ。  苦し紛れも良いところだ。なんだ、銀の鍵、金の鍵って。斧じゃねぇのかよッ!!  なんてセルフツッコミさえもしたいわ。  うむっ! 「うむむ」  なんて真面目に考えるのが英輝らしい。  私のギャグにもならない苦し紛れをね。 「……なるほど。理解したよ。ミカン。分かった。埋蔵金は無かった。それで良いんだな? B組のみんなが、それで納得するかは分からん。が、そうしておこう」  およよ?  なんでか、理解して納得してくれたぞ。  ああ、いや、こういう事か。埋蔵金が在って、それを見つけられたら私にとって不味い事になるって分かってくれたんだ。もちろん、私が、その存在を隠したい埋蔵金だから、そんなに大層なものでもないって、それすらも分かってくれたんだ。  なんの言葉もないのに。さすがは英輝。  章二とは大違いだわよ。優しさMAX。  理解力もMAX。戦闘力は章二に劣るけど。それでもMAXな英輝に感謝だわよ。  うむっ! 「うん。ありがとう。英輝。分かってくれて。だったら帰ろうか。日常にさ。一年B組のみんなが笑い合って、ふざけ合って、大切な思い出になる楽しい日常にさ」 「うむむ。いくらか説明臭い発言だが、まあ、銀の鍵と金の鍵が、そうさせたとでも納得しておこうか。ミカン。そうだな。帰ろう。僕らの日常にね。楽しいソレに」 「てか、英輝も説明臭くなってるぞ。アハハ。でもソレさえも愛おしいよ。英輝ッ」 「い、愛おしいだって。止めろ。ミカン」  と赤くなる英輝。照れくさそうに笑う。  顔を背けて両手のひらで来るなの拒絶。  アハハ。 「どったの? 英輝。なんで赤くなってるの。意味が分からん。まあ、いいけどさ」 「わ、分からなくていい。ミカン。分かったら、それこそ僕が困る。章二とは正々堂々と真っ正面からぶつかりたいからね。とにかく、もう遅い。帰ろう。ホームへ」  うんッ!  冷静沈着な英輝が焦るのは珍しいけど。  そだね。  うんッ!  お家に帰ろう。あの温かいお家へ、だ。  また静かに雪が降り出した。優しくも。  ひらひらと白い妖精が微笑んで踊った。  そうして埋蔵金発掘という一年B組にとっての一大イベントは終わりを迎えた。五年ぶりに舞った雪は天気予報に反して思ったよりも深々と降った。朝までには小春市一面を真っ白に染め上げた。もちろん、大人達は、やれやれ感が強かったけど。  私は、素直にホウという歓声を上げた。  そして、  あの一大イベントが在った日から数えて次の日曜日。  私は、再び、鍋敷き山へと来ていた。もちろん埋蔵金を発掘する為。  まだ雪が残る、いくらか白いソコへと。  謙一から支給された、あの緑の作業着〔ジャージ〕を着てね。もちろん、章二と英輝の位牌〔写真〕も持ってきたわよ。というよりも一年B組のみんなが写る集合写真を持ってきたんだわよ。まあ、私の罪悪感からの罪滅ぼしとでも思ってくれい。  さぁ、じゃ、発掘しようか。埋蔵金を。  うむっ!  そう思ったら晴れた空の下でアイツが微笑んだ気がした。地蔵がだ。  ふふふ。  と……。
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