第四羽、青い鳥

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第四羽、青い鳥

「自信が起こる」  うむっ。  章二と謙一は、それで納得していた。  なんで、そんなにも納得できるのかは分からなかった。けど、大枠、賛成しても良い。だってさ。今、目の前に、なにが在ると思う? まあ、別にもったいぶるようなものでもないんだけどさ。まあ、一応、ストーリーテラーとしてはね。  そうだ。  そうなのだヨ。埋蔵金はアチラと、太い字で書かれた立て札が立っていたのだ。  如何にも怪しさ満点のソレは自信満々に私達の眼前に立っている。  どどぉん! という過激な音が、ものっそ似合いそうな感じでだ。  それと。  今日は冬休みが明けて初の登校日だったから実質の三限目までしかなかった。つまり昼の十一時に学校は終わった。そのあと鍋敷き山に入って二時間ほど時間が過ぎてココまで来た。なので、今は、お昼過ぎの一時くらいだろう。多分ね。  うむっ!  あたしの腹時計も、そう言っている。  お腹が、ぐうっと鳴る。はら減った。 「というか、あからさまに怪しいよね」  と私だ。  いやいや、この怪しい立て札の事よ。 「ふむっ」  と謙一。 「まあ、そんな事、口にするまでもねぇよ。怪しいとか、怪しくないとか、そんなの考えるまでもねぇだろ。普通に無視すればいいだけの話じゃね? ミカン?」  章二よ。  ……もはやミカンと片仮名で呼び捨てる事にツッコむのは疲れた。好きにしろ。 「でも、ちょっと待て。これは間違いなく怪しいものとして、じゃ、誰が、何の為に立てたのか、という話になる。意味もなく立てるにはコストがかかりすぎる」  と謙一が英輝ばりに真剣な顔して章二を制して、ゆっくりと言う。 「コストね。ハァ。謙一、コストとかリスクとかメリットとか、そんなもんばかりに目がいくから大事なもんを見落とすんだぜ。面白いからでいいんじゃねぇ?」  さっき正論ばかり吐いて感情を見落としていた英輝を考えると、今の章二の発言も、あながち間違ってないようにも聞こえる。でも、今日、今、この瞬間までに、誰が、何の為に立てたのか? を考えるのも無駄じゃない。意味は在ると思う。  無論、面白いから、なんて理由では少なくとも私は賛成できない。 「うむっ」  謙一ッ!  それ、私のアイデンティティッスよ。  なんて、いらない事を考えようとした瞬間、彼がとんでもない事を言い出した。 「思うにだ。埋蔵金が本当に在るという証拠なのかもしれん。むしろ、無いとするならば、それこそ、立て札の意味が章二が言うソレ以外に考えられんからな」  なにゆえ? なにゆえにそう思うの? 「仮にだ」  うむっ。 「仮に埋蔵金が在るとし、在るからこそ埋蔵金から目を逸らさせる為、怪しい立て札で怪しさを演出して埋蔵金の話をチープなものにするとは考えられないか?」  うぬぬ。  続きを。  謙一ッ! 「逆に埋蔵金が無いと仮定すると、あからさまに怪しい、この立て札の意味は埋蔵金は無いから帰れと主張する以外に意味はない。書かれた文字に反してな」  あとは。  章二が言ったように面白いから立てたくらいしか思いつかないな。 「だとするとコスパを考えれば答えが出る。無いから帰れでは費用対効果が悪すぎる。こんな立て札を立てるまでもなく見つからなければ俺達は帰るんだからな」  もちろん、埋蔵金が、な。  と腕を組んで考える謙一。  そこでピーンと閃いた私。 「でも思った。謙一、見つけられたらヤバいから無いから帰れじゃ、ダメなん?」 「俺たちは、高校生だぞ?」  ほへっ? いきなり、何?  意味が分かんない。私達が高校生なのは今に始まった事じゃないでしょ。むむ。  章二は合点がいったのか、静かに頷く。そして、あたしに考える事じゃない。感じる事だと耳打ちしてから、そうだな。俺たちは高校生に過ぎないなんて言っていた。そのあと、間があって……、空で雲が流れて、ひらりと舞い降りる風花。  ソッと頬をかすめる。うひ、冷たい。  兎に角。 「でなければ深い意味もなくでは、やはり労力コストがかかり過ぎる。何かしらの意味が在るからこそ無駄を無駄で終わらせなくて済むのだからな。合理解だろ?」  ……だよね。この立て札の存在自体、無駄だからね。意味がなければ余計にさ。  うむっ! 「俺様は合理的にって言葉が嫌いだから、なるほどって納得したくないけど。……まあ、言ってる事は間違ってない。だったら、やっぱり埋蔵金は在るのか?」  と章二が、右人差し指でコリコリと音を立てて鼻頭を軽く掻いた。 「そう考えて間違いないだろう。だが、決めるのはリーダーである章二、お前だ」  というか、謙一、あんたがあんたである証拠、ククク。お笑いだ、はどうした?  なんか、謙一と英輝がダブって、いくらかサブイボが出てきたぞ。  めっさ痒いんだけど。止めてくれる? 「そうだな。章二様としては在った方が面白い。で、面白い方に行きたい。だったらって考えると、アチラ、と書いてあんならアチラと指された方に行きたいぜ?」 「いいんだな。その解で?」  罠かもしれんぞ。章二よ。  と謙一が言うと、まあ、いいんじゃねぇの? くらいの感覚で笑いつつ頷いた。  私も面白ければ、なんでも良いという感覚の持ち主だから章二の意見に反対するつもりもない。リーダーは章二だしね。でも、やっぱり、先に、何が在るのか? と考えると、あからさまに怪しい立て札だから、ともすれば罠の可能性もある。  そう勘ぐってしまう……。  うむっ!  兎に角、考える事が苦手な章二がリーダーの我が発掘チームは、とりあえずだが、考えるのを放棄し、立て札から案内された方角へと歩を進めた。そうして山道〔東海自然歩道〕から外れて三十分ほど藪の中をさ迷い、小さな池の前に出た。  ケケケ。  キョッ。  いきなり何だ、とビックリしたが、ツグミだ。冬の野鳥。うむっ。  ツグミは、飛び立った枝から一枚の葉を落とす。葉が冬風に乗って、くるりと一回転したあと、ふさっと地蔵の鼻に着地する。無論、鼻に乗るわけもなく鼻頭をかすったあと、また、くるりと一回転して目の前の池に着水する。のち笑む地蔵。  ふふふ。 「ふぅぅ」  額に玉汗が浮かんだ章二が、右一の腕を使って汗を拭う。ゴシゴシと力強くも。 「こんなに歩いたのは久しぶりだ。楽して大もうけがモットーな俺が、こんなにもコストをかけ、埋蔵金探しなんて埋蔵金が無かったら、それこそ、お笑いだ、だ」  そして。 「ククク」  方やムッとした顔の謙一。 「その発言。俺を揶揄ってるだろう? 死にたいか?」  死にたいかって、あんた、コンプライアンス違反でBANだわよ。その発言は。  神さま独自のそれに抵触。  一発レッドカードだわよ。  うむっ! 「へへぇ」  章二は、  両手のひらを広げて両腕をあげ腰を折り前に平伏する。 「死にたいかと聞かれてしまえば、お代官様には逆らえませぬ。もちろん、死にたいですよ。当然だが、揶揄ってるぜ。それこそが章二様なのだよ。謙一くぅん」  とアゴを突き出して、ここだよ、ここを殴ってみぃ?  なんて挑発し出す、章二。  うむっ。  コホン。  と落ち着いて咳払いな私。 「くぅんじゃねぇ。それこそ私が殺す。章二。あんたを。コンプライアンス上等」  なんて天上におわす神さまに喧嘩を売ってしまった。  が、まあ、冗談なので笑って許してもらえると嬉しい。いや、そんな事はどうでもいい。それよりも今は英輝がいないんだ。喧嘩をしている場合じゃない。って私もけんか腰だったね。落ち着こっと。大きく息を吸って吐いてスーハーだわよ。  兎に角。  この池に着くまで、ここで語るべき何事もなかった。  何事もなく、藪の中を、ちくちくする草に足を攻撃されて変なトゲトゲのタネっぽいものが服に付いて、なんて感じで、もそもそとココに来た。あっ、そそ。余談だけど、冬だからかな。虫が少なかったのも救われたね。虫が嫌いだからさ。  うむっ! 「そういえば、ミカン、知ってるか?」  なんだ、いきなり突然。改まってさ。 「青い鳥の話。モーリス・メーテルリンク作の絵本」  いやいや、それこそ、なんだ、いきなり。寒いぞ。  あんた、本当に章二? 章二なのか?  神妙な面持ちの章二は操られているかのように流れだす言葉を口から溢れさす。 「チルチルとミチルが色んな世界に青い鳥を探しに行く物語だ。俺さ。実は母親が居なくて、小さい頃、親父が、寝るまでベッドの横で読み聞かせしてくれたんだ」  うむぅ。  これは茶化しちゃいけない気がする。 「親父がよ。適当がモットーだったから母親の異変に気づけなくて病院に行くのが遅れてな。で、病院で母親が言ったのよ。その適当さが無かったら、私は……」  あんたを好きにならなかった。だから後悔してない。あんたもそのままでいて。  ってな。  章二、あんた、そんな過去が在ったの。正直、言葉がない。ごめん。役立たず。  なんて申し訳なくなり頭を下げる私。 「気にすんな。聞いて欲しいだけだ。ミカン。……分かってるから」  と天を仰いで息を吐く章二。続けて。 「この埋蔵金の話も俺にとっちゃ、青い鳥なんだ。意味が分かんねぇだろ? いいんだよ。今は分かんなくても。でもミカンだったら、いつか分かってくれる」  ふみぃ。 「そう信じてる。まあ、そんなとこだ」  と言った途端、ニカッと笑った章二。  うむっ。 「そんな大層な役、私なんかに務まるか分からないけど……。分かった。任せて」  章二ッ!  なんて無い胸を張って、どぉんと来いッ! とばかり思いっきり強く胸を叩く。  でもね。青い鳥の話を聞いて思った事もある。さっきの謙一の一言の意味が分かったのだ。それは、結局、私達は高校生に過ぎないって事。もちろん高校生ではあり得ないお金を動かしてはいる謙一だけど、それでも根っこは高校生なんだ。  英輝だって章二だって。無論、私も。  つまり。  仮に埋蔵金が在ったとしても、それを高校生に過ぎない私達が探し出せるのかって話だ。昔のTV番組で徳川埋蔵金っていうお宝を探すコーナが在ったらしい。お父さんからの又聞きだから詳しくは知らないけど、その企画は失敗したらしい。  そうなのだ。大人が、それこそ、あり得ないほどのお金をかけて挑戦での失敗。  そんな夢幻なる理想の完遂と言える行為こそが埋蔵金発掘なんだ。  うむ。在るのと、見つけるのは違う。  そだね。  その意味で、青い鳥を探して大冒険を繰り広げたチルチルとミチルは私達なのかもしれない。結局、見つからず仕舞いで、でも最後に家に帰ってきたら。そだね。それでいいのかも。埋蔵金発掘を楽しんだ上で、その果て、お宝に気づくでさ。  そんな事を考えていたら、また地蔵が潤んだ瞳で、私の見つめてから微笑んだ。  ふふふ。  と……。
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