リベレーター~風習と呪いにより村を出た彼女は故郷に帰るため世界を巡る

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足取りが重い、今日こそはと思いダメもとで依頼に当たってみたもののやはり収穫0とは……。 「しょげてたってしょうがないわよノエル、元々望み薄なの承知で受けたんだからいつまでも落ち込まないの」    同僚兼親友のエイミーの励ましが心に染みる、その情熱的なまでに赤い髪がポジティブの源なのかなぁ。 「そうはいってもさぁエイミー、もう私便利屋初めて5年だよ? そろそろ手がかりの1つくらいあってもいいと思わない?」  7年前、私は海に面した村のオブリヴに立つ塔に生贄に出されたみたいだけどその時の記憶はない。  家族と離れる呪いもかけられたため、遠く離れた街で便利屋をしながら問題解決の糸口を探しているのだが今だ手がかりは0なのが現状だ。 「そうは言ってもさ、その塔がどんな役割の建物かとかはわかってないの?」 「生贄が50年ごとに必要という言い伝えしかわかってないかな。 他の手がかりといえばこれぐらい」 「それにしてもそのペンダント、塔の外にいた時は身に着けていたんでしょ?」 「まぁね、本当なら塔に入って調べられたらいいけど私じゃ近づけないし」  ふてくされながら現状を口にする私を余所にエイミーは興味深そうにペンダントを見つめている。   「それにしても不思議よね、ノエルがそれ装備したらみんなに霊素を分け与えることができるんだから」 「うん、なんとなくできる。 でもそれってすごいの?」  私としては息をするような感覚でする感じだから自身ではすごいという実感がわかない。 「すごいに決まってるじゃないっ。 だって霊素を分けるって体内の水分を分け与えるようなものなんだから」  どうやら霊素は生物に含まれる物質の一部で技や術を使わない限りは外へ流れ出ることはないんだとか……。 「ねぇエイミー」 「なに?」 「私ってもしかして選ばれし者?」  呆れたように溜息を吐くエイミー……はい、調子に乗りました、けどそんな顔しなくても……。 「調子に乗らないの、この前だってそれで剣にポイズンスネークが絡みついた剣を振り回しながら『ギャー、エイミー取ってー毒こわーい』って半泣きしてたのは誰?」 「はい、反省してまぁす。  それにしてもさぁ、首飾り一つじゃ手がかりになんてならないよぉ」 「ペンダントがあるんだから手がかりとしては0ではない、それなら可能性はあるって。  マイナス思考だと見つかるものも見つからないからまずは店長に報告しないと、ホラホラー」   掛け声を上げるエイミーに文字通り背中を押され今現在私の住んでる街、ピオスに帰還した。  水上都市だけあって漁業が盛んで桟橋から見える海も綺麗だ。 「住んでからもう7年だけど、いつ見てもこの街は綺麗だよね」 「やっぱり? あたしも初めて来たときはあまりの活気にビックリしたよ。 あたしの故郷とは大違い」 「エイミーの一族狩人だもんね」 「実家の親がうるさくてね、早くいい人見つけれって」  エイミーの実家は狩人の一族で平均して16歳で結婚適齢期なんだとか、早い。 「そんな早い年齢で結婚とかいつの時代よ、古代じゃあるまいし、風習に人生決められるなんてまっぴらごめんだわっ」 「私も自分の生き方見つけないとなぁ、それにはまず記憶取り戻したりしなきゃなわけで、トホホ……」  しょげてる私が目立ったのか、常連客のビッケおじいさんが心配そうに話しかけてきた。 「やぁやぁノエルちゃんにエイミーちゃん、いつもお疲れ様。 ノエルちゃんそんなに肩落としてなにかあったかい?」 「はい、今回もダメでしたぁー」  私の事情を知る常連のビッケおじいさんは『ふむふむ』と言いながら髭をさすった。 「焦らずじゃノエルちゃんや、良い結果というのは時間のかかるものじゃ。 7年前と比較してもずいぶん人馴れしてきたんじゃからかなりの成長じゃぞ?」  確かに、思えばピオスに移住させられたばかりの頃は人見知り激しくてほとんど喋れなかったっけなぁ。 「そうそう、あたしが初めて街の入り口で目撃した時なんて『し、仕事、ありますか?』てド緊張してたよ?」 「もぉー、エイミー忘れかけてたのになんでそれ言うかなぁっ」 「ごめーんっ」  私達のやり取りがおかしかったのか、ビッケおじいさんは『フォわッフォッフォ』と笑ってる。 「ほんとに仲がいいのぅ、ウチの孫みたいじゃ。 はて、孫と言ったら最近子供がロカムで行方不明という話、あれは心配じゃの、君たちも気を付けるんじゃよ」 「そんな、ビッケおじいさん大げさだって、あたしもノエルももう22だよ?」  まぁ確かに年齢的にはだけど、私とエイミーの性格は10代の延長線でしかありませんのよね。  その証拠にビッケおじいさんも豪快に笑っております。 「ワシから見ればまだまだ子供じゃよ、早いうちに帰るんじゃぞ、ギルバート君にもよろしくなー」  それだけ言い残すとビッケおじいさんは背を向けて自宅方面に去っていった。 「確かに、いい結果なんてそうそう落ちてる者じゃないよね。  ありがとエイミー、少しは元気になったよ」 「その息その息、そうと決まれば早速事務所戻るわよ……とは言っても店長ってばまた低価格で依頼受けてるんだろうなぁ」  ———— 「店長ただいま。 さっきビッケおじいさんに会ったんだけど店長によろしくってさ」  当便利屋、HEART・PROTECTIONの店長、ギルバート・ライズさんは今日も喫煙中です、人々のハートの前に周囲への肺のご配慮をお願いします。   成長期のモニカには悪影響だし姉貴分のルーシーはタバコ嫌いなんだから。 「エイミー君か、お疲れ様。 ところで今回はどうだったねノエル君」   あ、前向きになりかけてたのに店長の言葉で思い出した。 「ダメでしたぁ。 これだけ探して見当たらないんじゃもしかしたらもう万策尽きたかも、きっとそうだそうに違いない」 「あー、店長ノエルのこと落ち込ませたぁ、あたし知ーらない」 「ちょっと待ってよエイミー君。 俺のせい?」  とりあえずそのたばこの煙が目に染みるからということにして穏便に済ませておこう。 「ちょうど頼みたい依頼が入ったんだが、もしかしたらノエル君にとっては収穫のない仕事かもしれんな」 「どんな仕事ですか?」  私の問いに店長の顔つきが少し険しくなった。 「ロカムの子供の失踪事件は知ってるかな?」   「それって、さっきビッケおじいさんから聞いた……」  「あぁ、もう3日間も見つからない子が多いらしい、差出人未記入で怪しいが内容的に無視はできないと思ってな」 「大変じゃないっ。 行こうエイミー、今すぐっ」  すぐに任務を受ける姿勢に入った私に店長は気を使うように問いかけてきた。 「ノエル君、手掛かりには繋がらなそうだが頼めるかい?」 「助けを求めてる人がいるんですから其処へ向かうのに理由なんて要りません」 「そうだな、君はそういう子だったな。」  そう言って笑みを浮かべた店長は形式ばった言い方で私達に号令をかける。 「ノエル・イルセリア、エイミー・セルジュ、ロカム村にて失踪した子供たちの捜索を命ずる。 なにが起こるかもわからない、俺の方からルーシー君に伝達はしておこう」  店長の号令を聞き終え、弓を装備したエイミーは近道の提案をしてきた。 「一秒でも惜しいわね。 ノエル、森突っ切って最短距離で行くわよっ。 はぐれないようにね」 「わかった、急ごう」  まず目指すはロカムに繋がる南西のフォレジア森林、私とエイミーは人混みの街中を駆け出した。
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