年下と年上

8/9
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
「スタジオの出入り口の扉って出入りしやすいように、誰かが押さえてくれるときがありますよね」  泉くんの言葉を受けて、いつもお世話になっている収録スタジオの出入り口の扉のことを思いだす。 「私、扉を押さえるのは新人の仕事なのかと勝手に思っていたんですけど、この間ベテランの方が扉を押さえてくださって驚きました」  本来は、本当は、新人の仕事かもしれない。  でも、この間の収録スタジオで、ベテランの男性声優が私たち新人たちのために扉を押さえてくれたことに感動してしまった。  気を遣わせてしまった悪い後輩の見本かもしれないけど、ベテランさんが優しくしてくれたことに喜びを感じた出来事でもあった。 「俺も橋本さんと同じで、扉を押さえるのって新人の仕事だと思ってるんですよ」 「ですよね!」 「それで、今日は俺が扉の番をしてやるーって意気込んでいく日に限って」 「……私がいた?」 「はい、その通りです」  これは、泉くんが私を嫌っているって話をしているはず。  それなのに、当時を思い出しながら泉くんは柔らかな笑みを浮かべてくれる。 「この子は気が利くってアピールする場を、なんで先輩声優に奪われなきゃいけないんだって」 「それは申し訳ございませんでした……」 「橋本さんに対して、新人の仕事奪うなーって思ってました」  これは、落ち込む話でもなんでもないってことを、泉くんの声と表情が教えてくれる。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!