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『一方的に告白しておいてあれですけど……返事はいらないです』
そう彼は言葉にしたけど、返事がいらない自己満足な告白に私は聞こえなかった。
『俺たちの共通って言ったら、同業者ってことと、通っている学校が同じことと……』
泉くんが、自己満足で告白してくるような人に思えなかった。
『名前に季節が入っていることくらいですよね……』
泉くんの何を知っているわけでもないけど、泉くんが告白を投げっぱなしするような人には見えない。
『これから橋本さんに好きになってもらえるように努力するので、そのときに返事をください』
そのときって、いつですか。
そのときって、本当に来ますか。
そのときが訪れる頃には、私以外の人を好きになっていませんか。
(泉くんのことは知ってた)
サンドイッチが包装されていたビニールなどのゴミをまとめていく。
手を動かす。
指を曲げて、伸ばしてを繰り返す。
(苗字だけじゃなくて名前も……)
とあるアニメを観ていたときに、エンディング画面に表示された出演者の名前に私は注目した。
『あ……』
学生3役を務めていた泉夏都という名前に、惹かれた。
(夏って漢字が名前にある声優さん……けど読めない……)
観ていたアニメ画面を閉じて、泉夏都の読み方を検索した。
(いずみなつ……夏都くん……)
そんな過去があるからこそ、私は泉くんのことをきちんと認識していた。
収録スタジオで、出入り口の扉を押さえるのに手を貸してくれたのが泉くんだってことは、ちゃんと認識してた。
(でも、言えなかった……)
鞄から、服用しているカプセルタイプの薬を2つ取り出す。
ふと廊下に目を向けると、泉くんとクラスメイトの男の子が空き教室を訪れているのが目に入った。
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