年下と年上

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「……橋本さん」  薬に付いた汚れを気にするべきなんだろうけど、その汚れを気にしている余裕がない。 「どこか体調でも悪い……」  ペットボトルの水で薬を服用する。 「いえ、ただのサプリメントですよ」  机の上にはお昼ご飯を食べるときに飲んでいたと水筒と、水の入ったペットボトル。  服用方法に気を遣う薬ということもあって、薬用の飲み物と食事用の飲み物の2種類を用意しなければいけない。  飲み物を大量に用意してあることを、不審に思われたのかもしれない。 「泉くん、ありがとうございました。すごく助かりました」 「いえ、俺は拾っただけなので……」  薬を飲み終わると、私たちは改めて椅子に座り直す。 「こんなとことで泉くんと会うなんて、驚きました」  これまでの一連の動作に、深い意味はないということをアピールする。  演じるのは、一般の人よりは得意なはず。  何も起きていないってフリをしながら、私は泉くんとの話を進めていく。 「中学のときって、空き教室に入ったらダメって学校って決まりがあったんですよ」  泉くんは、ごく普通に言葉を返してくれる。  薬への追及がないということは、いつも通りを演じ切りたいという思惑が成功したということかもしれない。 「高校は基本的に自由に使っていいので、気分転換に教室以外のとこで食べるんです」  飲み物を買いに行った小木下くんが帰ってくるのを待たずに、泉くんはお手製だと思われるおにぎりを口にした。
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