日向と日陰

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(この世界には日向で生きていく人と)  指を、曲げることができない時期があった。  指の関節が炎症を起こして、うまく曲げることができないときがあった。  ベッドで横になる、過去の自分。  部屋に置いてあるパソコン画面に映るアニメーションから、七春(ななは)ちゃんの声が流れてくる。  七春ちゃんが表紙を飾る雑誌が散財している部屋。  あのときの私はアニメを観る元気もなければ、雑誌に手を伸ばすこともできなかった。 (日陰で生きていく人がいる)  ベッドの上で、涙を零した。  何度も、何度も。  でも、ほぼ寝たきりの状態の私の涙を拭ってくれる人は現れなかった。 (帰らなきゃ……)  曇り空だった空から、雨が降り始める。  私を始め、街を行く人たちは傘を持っていなくて焦った様子。 「っ」  雨が激しくなると同時に、私の瞳から流したくない涙が零れてくる。  公の場で泣いてはいけないと分かっていても、私の涙は零れてきてしまう。 「近くにコンビニあるので!」  後から来た彼に、手を引かれる。 「走りましょう」  降りしきる雨の中、私と彼は走った。  私が泣いていたってわかる跡は、雨に流されて消えてしまった。 「大丈夫ですか」  コンビニまでやって来ると、コンビニで雨宿りする人々が大勢いた。  私はコンビニの外で、コンビニの屋根を借りて雨宿り中。  ずぶ濡れなのは私だけでなく、少し安堵する。 「ありがとうございました」  泉くんがコンビニで購入したビニール傘を手渡してくれる。
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