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「温かい飲み物をどうぞ」
制服が渇くまで寛いでくれと言わんばかりに、私をもてなしてくれる泉くん。
テーブルの上に、マグカップが置かれる。
「あの……橋本さんの手を引いたのには理由があって……」
その理由を聞くために、顔を上げる。
少し間ができたけれど、泉くんは意を決して話を先に進めることを決めたらしい。
「知哉さんのこと、好きだったんですか」
「……ともやさん?」
どこかで『ともや』という響きを見かけたことも聞いたこともあるような気がするのに、誰の話をされているのかまったくわからなかった。
「え!? さっきまで共演していた南知哉さんのことです……」
「あ、南さんの名前って知哉さんでしたね」
「はい……」
「苗字で記憶してしまっていたので……すみません」
南知哉さんの話だとわかると、七春ちゃんとの熱愛トークをしようとしているのだと察する。
「お付き合いされてたんですね、あの二人」
「あ、その……橋本さん」
「はい」
「あの……タイミング的に、知哉さんの熱愛を受けて泣いていたのかと思って……」
南さんの熱愛を受けて泣く?
誰が?
泉くんの言葉を復唱する。
すると、ビルの外で涙を零していたときのことを指していることに、ようやく気づいた。
「いいえ、違います」
否定の言葉を返す。
でも、否定の言葉を返したら返したで、泉くんは自分の勘違いが原因で私に声をかけてしまったことを後悔して頭を抱えてしまった。
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