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蓋を外し、飲み口に吸い付くようにして口を付けた。
キンキンに冷えたミネラルウォーターが喉奥に押し寄せ、一気に食道へと洪水のように流れていく。
ツナギは思わず両目に涙を滲ませた。これまでに歩んできた人生の終焉を体もようやく理解した。
同じに見えて何かが違う。
同じ水でも、時と場所が違えば、全く味も感情も変わる。
それを身を持って知ってしまったということだろうか。
自販機のボタンを押した時は、それほど欲しいではなかった乾パンも、喉が潤った今となれば……。
「はぐっ………はぐっ……モゴモゴ……」
その場に座り込み、夢中になってフードパウチの中に手を突っ込んでいた。指先の力だけでは潰したり、ちぎったりすることは難しい。
しかし口に含むと、どの歯でもしっかりと噛み応えを堪能出来る絶妙な固さ。ツナギが生きていた間に乾パンを口にしたのは2回だけ。
記憶の片隅にすらないはずだったそれを鮮明に思い出す程にこの乾パンは美味いのか。
飲み込むには想像しているよりもずっと多くの回数を噛まないといけない。しかし、咀嚼すればするほど、甘みが感じられるのは事実である。
それも4つ5つと食べ進めると感じなくなる程に仄かである。
それでも、今体に必要な最低限のものを得られているのは確かだった。
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