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腰に巻くポーチ。そこには水で湿らせたダスターが入っており、2枚あるうちの黄色のもので、スライダーの汚れをさっと拭き取る。
それを覆うカバーをパカパカと開閉し、問題がないことを確認。台を閉め直し、メダルホッパーから取り出した、1ゲーム分のサービスメダルを投入し、客に開放した。
取りかかってから客が座り直すまでおよそ20秒足らず。実によく馴れた所作であった。
しかし、ひと息着いてもいられない。同じ列でもう1台エラーが発生しているスロット台がある。
それでも、どんなエラーかは把握済み。台端の横扉の中。カギがかけられた高さ40センチ幅20センチ程の空間には循環したメダルがたっぷり詰まったスコップが格納されている。
それの持ち手を左手でがっしりと掴み、呼び出し中の台の元へ。腕時計で時間を確認しながら立って席を空けた遊戯客に会釈をして、人気深夜アニメのタイアップ機のドアを開ける。
可愛らしくも艶やかな。
メインヒロインキャラのボイスを耳にしながら、空になっているメダルホッパーにスコップの中身をぶちまけて台を閉め直す。
口角を僅かに上げて作った笑顔と広げた右手を差し出して、ツナギは客に遊戯を再開してもらった。
「おい、兄ちゃん!缶コーヒー!微糖な」
戻り際、すぐ側の台に座る薄汚れた作業服姿の中年男性。進路を塞ぐように腕を伸ばし、少々雑な動作でツナギに7枚のメダルを差し出した。
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