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わざわざ二階の洗面所に行き、ついでに自分の部屋に寄って、ハンモックを眺め、ふう、と一息ついて戻ると、常務が廊下でウロウロしていた。
会場からは、かなり遠い場所にある廊下だ。
月花を見るなり、
「迷路かね、ここは」
と文句を言ってくる。
「二人で住むのには広過ぎないかね」
「はあ、すみません」
と何がすみませんなのかわからないが、とりあえず謝ってみた。
「常務、お戻りになるのなら、お連れしましょうか?」
「そんなに老いぼれてはいない」
いや、そういう意味で言ったんじゃありませんけど。
また迷子になるかなあと思って、と思う月花に常務はあまり視線を合わせずに言う。
「……妻がまだお手洗いから出てきていないのだ」
「ああ、それで待ってらっしゃるんですね」
と月花は笑った。
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