序 闇に奔る者達

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序 闇に奔る者達

 ――奔れ、奔れ、その命の絶えるまで。  奔れ、走れ、思うさま――。  お前の望みは叶えられた――、その命尽きるまで、その想いを遂げるがいい。  ――「()()()()……」その望みのまま逝くがよい。  その()()()はお前の想い――、  それこそが、お前の心からの望みであろう?  ――(わたし)はその想いを叶えるもの。  さあ――喜びのまま、闇を奔れ――。  ――そして、……。  森部市森部町――、その月光の下に、奔る一つの影があった。  それは人ではあったが、その速度はもはや人ならざる者の走りにて――、  近くの道行く人すらそれに気づくことはなく、まるで疾風そのものであった。 「おい! 急げ羽村!!」 「ま……まて、この――」  そして、その疾風をそのはるか後方より追う二人の影もあった。  それは、森部市立森部高等学校の制服を着た二人の少年。  その胸には――、  『羽村誠』――、そして『近藤敏明』――と、名札を見ることが出来た。 「く――、なんて早さだよ! これじゃあ追いつけん!!」 「うぐ……げほ」  近藤敏明が疾風を遠くに見つつ悪態をつき、羽村誠は口を押えて催す吐き気を我慢している。  敏明は誠のその姿に頭を掻きつつ言った。 「大丈夫か? 羽村……」 「大丈夫に見えるのか?」 「まあ――、そうだな」  敏明は苦笑いしつつ走る。それよろよろとした足取りで追いかける誠。 「なあ……羽村。お前のアレで何とかならんのか?」 「それは――、その後の始末はお前がやるっていう意味か?」 「む……」  誠のその言葉に敏明は口ごもる。それもそのハズ――、 「前にも言ったろ? 今の(おれ)の――、羽村誠の才能じゃ、アレはたいていの場合、一日に一回が限界なんだよ」 「それは――、そうだったな」 「うぐ……くそ。なんて(おれ)は体力がない――。もっと体を鍛えておくべきだった」 「はは――、今からでも遅くないだろ?」  のんきにそんなことを宣う敏明を睨みつけながら、誠は必死に前方を走る疾風を目指し走る。  まあ――、当然のごとく追いつくことはできないが。 「うぷ……、ちくしょう。ここは――、こいつで……」  誠はついにその場に立ち止まって息を荒くしつつ懐を探る。  前を走っていた敏明が気づいて誠に声をかける。 「大丈夫か?! 羽村!!」 「うるさい――、夜中だぞ……。すこし静かにしろ」  そう敏明に言葉を返しつつ誠は懐の中の一枚の紙を取り出した。  ――それは、まるで飛行機――、或いは翼を広げた鳥のように切り抜かれた白い紙であり――、 「疾く――」  誠がそう呟いた瞬間に、ソレは空へと飛び立ち――、奔る疾風を追うように飛翔していったのである。 「おい――、アレは? 大丈夫なのか?」 「多少、チカラをつかったが――、この程度なら影響はない」 「ならいいが」  誠と敏明は、その紙の鳥が飛び去った方角を眺める。  その先に走っていった疾風を――、決して逃がすわけにはいかない。  乱れる呼吸を整えつつ誠が言う。   「ふん――、()()()()の奴。本当に厄介なことをしおって……」 「でも……あいつを止めねばならん」 「当然だ――、絶対に(おれ)が止める」  それは”決意”――。何よりも今この事態を解決できるのは、自分たちしかいないのだから。  ――それは、かの矢凪潤が森部市を去って後、数か月後に起こった表には出ることのなかった、とある呪詛事件に関する記録。  羽村誠――、そして近藤敏明の、二人の静かな戦いの物語である。  ――そして、物語は()()()へと遡る。
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