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1.嵐の朝に
「外が怖い? ならオレは、君が好きになる世界を作るよ。そうしたらきっと、外に出るのが楽しくなるからさ」
彼は朝日に輝く金の髪を風になびかせながらそう言った。伸びてしまった前髪の隙間から覗く紫色の瞳には自信が満ちている。
世界を変えることが、たいしたことなんてないと言うように。
私にはその姿が眩しくてすぐに目を逸らしてしまう。彼の手が私の頭に置かれた。顔を上げると優しくほほ笑む彼。
「大丈夫だよ、きっと――」
私はその先の言葉を、もう、思い出せない。
※
久しぶりにあの日の夢を見た。何百年も昔の夢。大切だった彼の顔には靄がかかっている。覚えているのは声と、髪、瞳の色。そして約束。
だけど、その彼はもうこの世界にいない。人間の寿命は短く、魔女の私の寿命は長いから。
魔女という存在は魔法を使えるというだけで、あとは人間と何も変わらない。だけど、人間は自分たちと違う存在を認めてはくれない。それは仕方がないことだと思う。
誰だって自分の命を脅かす存在は怖い。私にだって怖いものはある。だから私はこの現状を受け入れていた。
「よしっと」
私は天井を見つめて気合を入れると勢いよく起き上がった。暗い気持ちになっている時も、明るい気持ちになっている時も、刻む時間は同じ。ならば明るい気持ちでいたい。永い時を生きてきて私が見つけた教訓の1つだ。
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