私のごみ箱の中の『あれ・これ』はシンデレラのガラスの靴

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 金曜日、仕事が終わって、家に帰って、手洗いをしてリビングに行くと「おかえり!まーちゃん!」と、出迎えの声がした。少し大きくなった姪っ子のあこちゃんがテレビの前に座っていて、振り返って私を見て手を振っていた…って言うことは、お姉ちゃんも帰ってきてるってことやね。 「ただいま、あこちゃん。久しぶりやねー。ちょっと見いひんうちに大きくなったなぁ。えっと、今、保育園の年中さん?」 あこちゃんに近づいて屈んで膝立になって聞いてみた。 「うん!今、保育園の年中さん!毎日いっぱいご飯食べてるし、あこ、大きくなってるねん!」 嬉しそうに笑って私の質問に答えてくれた。そして、じーっと私の顔を見てあこちゃんから私への質問。 「まーちゃんは、今日お仕事やったん?」 「うん、そうやでー。お仕事頑張ってきてん…」 ここで、ふっと思いついて、次の言葉から棒読みで話す。 「あーっ…そう言うたら、疲れたわぁ…」 そして、急に『疲れました』…というわざとらしい下手くそな演技を始める。額に手をやり、汗をぬぐう真似をして、頭を左右にゆっくり大きく振り、大きなため息を一つ。すると私を見ていたあこちゃんが悲しそうな顔をして、両目尻には少し涙が。 「まーちゃん、お仕事いっぱいしてしんどいんや…そっか…そしたら、まーちゃん、しんどいし、早くお布団に行かなあかんなぁ。あこ、遊んでもらえへんなぁ…」 とそう言って、悲しい顔のままうつ向いてしまった。 下手くそな演技を見せて、『…って、全然しんどそうとちゃうやん!』って一人突っ込みをして、あこちゃんと一緒に笑おうと冗談のつもりでやってみたけど、あこちゃんを悲しませてしまって、一気に後悔におそわれる。かわいい姪っ子に笑ってもらおうと、私は再び演技をする。 「あーっ!なんか、元気出てきたわぁー!」 と棒読みで話しながら、ちらっとあこちゃんを見ると、悲しい顔のまま、でも顔を上げて私をじーっと見ていた。 ーーーよっしゃー!掴みはオッケー! 次にバレリーナよろしく、その場でクルクルッと二~三回まわってみる。 中心ぶれぶれの、ふらふらよろけながら何とかフィニッシュをして、キメポーズをして、ドヤ顔を視線を姪っ子のあこちゃんへ向ける。 姪っ子の顔は、悲しい顔から一転、ほっとした笑顔になっていて、これで一安心。  キメポーズのドヤ顔から直立姿勢の普通の顔に戻ると、「まーちゃーん!」と言いながら両手を横いっぱいに広げて、私に駆け寄ってきた。そして、もう一度「まーちゃーん!」と言って、私のお尻を両手でぎゅっと抱き締めた。私は、答える様に姪っ子の頭を両手で軽く撫でる。 「まーちゃん、こっちのポケットぱんぱんや!何入ってんの?」 下から私を見上げながら、ジーンズの右後ろのポケットをぽんぽんっと小さな左手で優しく叩く姪っ子。 「んー…何入れてたっけ?」 と言いながら、ぱんぱんなポケットに右手を突っ込んでみる。指先に当たったものを取り出して見てみる。 「あっ、これ、鼻かんだティッシュやわ」 少し前屈みになって、左掌にのせて姪っ子に見せてみる。 「まーちゃん、はな垂れさんやったんや」 「なんかね…ずるずるやったわ…三回くらいかんだわ、確か…」 と言いながら姿勢を戻して、再びポケットに手を突っ込んで、鼻をかんだティッシュの塊と思われるのを指先で掴んで左掌にのせて姪っ子に見せた。 「あっ、まーちゃん!ティッシュの中にあめちゃんの入ってんのあった!」 「あめちゃんの入ってんの…あー、包み紙の事やな…それ、お腹空いた時何個かあめちゃん食べてん、その時のやわ」 「へーっ。まーちゃん、あめちゃんおいしかった?」 「うん、おいしかったで」 「ふーん…おいかったんやー…」 ここで一旦言葉を切って、ちょっと考えてから「あんな、あんな、まーちゃん…」 と言って、急にもじもじしだした姪っ子。 「どうしたん、あこちゃん…」 と言いながら、視線を合わせるために姿勢を膝立ちにした。 「あこちゃん、もしかして、おしっこ行きたくなったん?」 とちょっと小声で聞いてみた。すると、返事の代わりに頭を横に振る姪っ子。 「そっか…おしっこと(ちゃ)うんや…あっ、そしたら、うんこちゃん?」 と聞くなり 「うんこちゃんと(ちゃ)うわーっ!」 と声を大にして否定した姪っ子。 「ゴメン、ゴメン…そしたら、どうしたん?」 そう聞くと、じーっと、私の顔を見て、小さな声で聞いてきた。 「あんな、まーちゃん…言っても、怒らへん?」 「うん?なんか分からへんけど、怒らへんし言ってみ?」 安心させる為におもいっきりの笑顔で、そしてより優しく話してみた。 すると、笑顔に安心したのか?声に安心したのか?姪っ子が小声で話し出した。 「あんな…あんな…まーちゃんのポケットの中、いいもん入ってへんなぁって…ゴミばっかりやし、ごみ箱みたいやなぁって、思ってん…」 「あこちゃん、それ、当たってるわ!ポケットからゴミしか出てきてへんもんなぁ。次、ポケットの中に手入れてみたら、もしかしたら、なんかいいもん出てくるかも…!?」 膝立ちのまま、再びポケットに手を突っ込もうと腕を動かした時、その腕を小さい手で握られた。はっとして姪っ子を見ると視線が合う。 「まーちゃん、次あこがまーちゃんのポケットに、手入れていい?」 「うん。どうぞ、どうぞ!あこちゃんが代わりにポケットに手入れてくれたら、なんかいいもん出てくるかも!」 そう答えると嬉しそうに笑って、握っていた腕をゆっくり離して、その小さな手をポケットへ…と、入れる前に一言。 「まーちゃん、手、ポケット入れていい?」 ーーーわっ!ちゃんと確認するんや!えらーいっ! と、姪っ子の成長に内心驚きと感動でいっぱいの私。 「ちゃんと聞くの偉いなぁ!…そしたら、あこちゃん、ポケットの中に手入れて、なんかあるか探してみて!」 すると、「はーい!」と元気よく返事して、少しずつ手をポケットに入れていく姪っ子。何かないか?と探すのにポケットの中で指を曲げたり伸ばしたりする姪っ子の指がこそばくって、若干身体が揺れてしまう。少しの辛抱と堪える私。それから体感で数分、その状態が続いた。   「あっ!」 と姪っ子が言った事で、遂に終わりの時がやって来た。 「なんか見つかったん?」 期待を込めて聞いてみた。 「うん!なんか見つかった…なんかな…なんかな…なんか小さい…なんかな…なんかな、固い…ほんでな、丸いねんけど丸くないねん。ほんでな、なんかな…通れる…」 「えっ?と、通れるん?」 「うん。通れる!」 自信満々の『通れる』という言葉に『それって何なんやろ?』と、答えに悩むも、指先で見つかったものを触りながら、それが何なのかを一生懸命伝えてくれる姪っ子の成長に再び驚きと感動に浸っていた。  そんな私を放ったらかして姪っ子は、ポケットの中で見つけたものを大事そうにゆっくりと取り出して、それを目にした。 「わーーーっ!ピカピカやー!きれーっ!」 「えっ…ピカピカ…固い…丸いけど丸くない…通れるってー………」 姪っ子が言ったキーワードが同時にある事・ある物が頭に思い浮かぶ…が、懐かしい声に意識がそっちへ行く。 「さっきからえらいにぎやかやなぁ。奥の台所まで、声、よう聞こえてんでー。どうしたん………あっ、まぁ、お帰りーっ。久しぶりやなぁ!」 奥の台所で夜ごはんを作る母を手伝っていたであろうお姉ちゃんが、手を振りながらリビングにやって来た。リビングにやって来たお姉ちゃんを見つけて、早足で大事に手に握りしめているを見せに行く姪っ子。『あっ!』と思ったけど、時既に遅し…。 「お母さん、見てー。ピカピカできれいやろ?まーちゃんのポケットから見つけてん!」 そう言いながら、握りしめている手をゆっくり広げて、をお姉ちゃんに見せる。を見せられたお姉ちゃんは、一瞬固まる。でも、ニヤッと笑って一瞬私を見る。 ーーーあっちゃー… 私は、明後日の方を見る。 そんな私を他所にお姉ちゃんは、姪っ子に聞く。 「なぁ、あこ。何か知ってる?」 姪っ子の手にあるを指差す。 「…知らん。お母さん、、何?」 また、ちらっと私を見て質問に答える。 「ンフフッ!な…ンフッ!この間寝る前にシンデレラの本読んだやんか…その時のシンデレラのガラスの靴って、覚えてる?」 「うん!覚えてる!むっちゃ覚えてる!!」 「ちゃんと覚えてるんやぁ~。エライッ!それ、お母さんに教えてくれる?」 「うん!いいでー!あんな、王子さまがシンデレラに靴はかせて、ぴったりのバチバチやってん!ほんでな、王子さまがシンデレラに言ってん」 ここで、お姉ちゃんの合いの手が入る。 「あこ、せいかーい!ちゃんとあってるー!ほんで、王子さま、シンデレラになんて言わはったんか、大きい、大きい声で教えてくれる?」 「うん!分かった、お母さん!」 むっちゃいい表情(かお)をして、気持ちがいいくらいの返事をして、一旦話が止まる。かわいいかわいい姪っ子が、大きい大きい声を出すためか?すーはー、すーはー、息をしている。その様子を顔を赤くして、明後日の方を向いて、肌で感じとる私。そして…姪っ子、有言実行しちゃいました。 「あんな!王子さまが言ってん。『僕と結婚して下さーーーーーい』って!」 それを聞いて、もう辛抱たまらんようになって、姪っ子の口を塞ぎに慌てて行きましたよ、私…。
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