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1.私の初恋は完璧な男の子
「こんなにアタシのこと分かってくれるのはアズサだけ」
そう言って笑ってくれるきみが大好きで、そんなきみに恋をして。
そんなきみの幼馴染って特権を得たことが何より嬉しくて。
16歳になった今、君だけをずっと見て今から気づいちゃったの。
「ねえ、アズサ。アタシ、好きな人がいるの」
えー!だれ? なんて私はとぼけた振りをする。
本当は知ってる。だって、あんな綺麗な瞳で見つめてたら気づいちゃうよ。
あんなふうに、顔赤くして、弾むように名前を口にしたら分かっちゃうよ。
「……笑わない?」
「笑わないよ」
「……同じクラスの高橋」
「あー。なんか分かるかも」
「ちょっと! 笑わないって言ったじゃないっ」
「笑ってないー。納得してるだけー」
笑わない。笑えないもん。
せっかくマサトと同じ高校入ったのに、高橋くんを一目みた瞬間、あっ、絶対マサトのタイプだって思った。
あんな、誰にでも優しくて、背が高くて、ザ・陽キャって感じの男子。
他のクラスの女子にも人気があるし、中学の時は他校の美人な先輩と付き合ってたってウワサもあるような人。
私の好きな人と同じ、男子。
「マサトの恋、私応援してるから!」
そういって、手を握ると迷いなく握り返してくれる。
手入れされた細くて綺麗な指。
ハーフアップのほんのり茶色に染められた髪。
マサトをマサトたらしめるすべてが、ものすごい努力の積み重ねでできてるって知ってるから。
女子顔負けの女子力。
顔はもちろん、仕草や口調までぜんぶが綺麗。
それからその、へにゃあって笑う、幼馴染の私だけに見せてくれる表情も全部ぜんぶ大好き。
「アタシ、すごくいい時代に生まれて、梓みたいないい友達に恵まれて……なんか幸せすぎるからこれ以上とか贅沢すぎる気がしてきた」
「もー。マサトはもっと貪欲になっていいんだよ。こんなに綺麗なんだもん」
あーあ。うそばっかり。
本当は、マサトのいう『いい時代』が嫌い。
多様性が嫌い。
だって、こんな時代じゃなかったら、歴史の授業で見た時代劇みたいにもっともっと昔だったら、マサトの価値観は認められなくて、周りが無理やり本音を押さえつけて、幼馴染に女の子がいたら結婚させられたりしちゃったかもしれないのに。
そうしたら、マサトのこの綺麗な仕草や口調も、私だけの特権だったかもしれないのに。
でも、きっとそんな時代だったらマサトは苦しくて辛くて仕方ないんだろうから、絶対に口に出すことはないんだけど。
意地悪な気持ちが胸の中でぐるぐる渦巻いて、少し笑顔が引き攣った。
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