34

1/1
前へ
/44ページ
次へ

34

 新しい雑誌の連載が決まって、毎月5日が締め切り。  定期収入は有り難い。そうなると迅の家賃がなくても生きてゆける。でも迅がいないと寂しい。  迅は相変わらずバッグを作って売っている。注文を受けて作ったり、作ったものが売れたりまちまちのようだ。ホルンのバッグを頼んだ人はわざわざ受け取りに来ていた。 「小波ちゃんがいないから、猟が始まったら自分でいろいろしないと。実は見ていただけで、肉を削ぎ落したりできる気がしない」  と迅が小波ちゃんが乾かしたなめし革に線を描いてカットする。大きさや手間のかかり方によって商品は数万から数十万円。迅も細かい作業と農作業を交互にする。ひとつのことに没頭するのも悪くないが、どちら作業も肩がこる。体のためにも適度な休憩は必要だ。  枯れかけた庭のオシロイバナを片づけた。 「種はなるべく捨てたいんだよ」  去年も片づけたはずなのに、今年は生息域を拡大したように感じる。 「この黒いの?」  迅がまだ枝から落ちない種をつまむ。 「勢いがすごいから、これ以上自生されたら畑のほうまで行っちゃいそうで」 「夏に少し周りの茎を落としたのにね」 「昔の子みたいにおしろいで遊ばないからか」  俺の姉さんだってそんなことしなかった。 「種を売ったら?」 「種苗法っていうのがあるんだよ」  花とか野菜は種類によって決まっている。 「へえ。由太郎さんは小説家だから詳しいね」  著作権とも近いかもしれない。  取れるだけの種は取って、あとは茎ごときって乾かす。畑ではなく、庭の隅に穴を掘って埋めた。 「ヤギにあげたら?」  迅が聞く。 「弱いけど毒があるんだ。茎だっけな? 根かな」 「え?」  持っていた茎を落とす。 「ちょっとお腹が痛くなるだけだ」 「でも、毒なんでしょ?」 「毒だって、薬みたいな作用するものもあると思うよ」 「そっか」  それは理解してくれるよう。自然のものは意外と多い。蕗もそうだし、ジャガイモの芽とかは有名だろうけど、生姜だって数百食ったら致死量。丸々そんな量を食べる人なんていないだろうけど。  そんなことを考えながら今日は生姜焼き。 「秋だね」  迅が庭を眺める。 「うん」  うちと後藤さんの家の境に栗の木がある。毎年、後藤さんから頂いていたが、今年は落ちてうちの敷地に入ったものはもらっていいのだろうか。わからないよ、後藤さん。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加