42人が本棚に入れています
本棚に追加
エピソードⅢ ご趣味は何ですか?
「まだ、30才前なら、結婚を急ぐ必要はありませんよね?」
「ええ、そうなんですが、父が、会社を早く僕に継いで欲しいらしくて……。早く結婚して、身を固めろと急かすんです」
ふうむ……。
なんか、納得のいく答えだ。
しかし、100回断られたというのは、まだ謎のままだ。
だが、さすがに、その断られた理由を本人に訊くのは、憚られた。
このイケメン御曹司を、意図せず、傷付けてしまうことになる。
あたしは、ぐっとこらえて、話題をお見合いっぽくした。
「都築さんの、ご趣味は何ですか?」
イケメン御曹司は、ホッとしたように微笑んで答えた。
「クルーザーでのカジキ釣りです」
「クルーザーですか……」
はああ……。
あたしみたいな庶民は、到底、付いて行けない話題だ。
「自分で操縦するのも楽しくて……」
「えっ? ご自分で操縦されるんですか?」
「はい。免許を取れる年になってすぐに取りました」
えええ……。
もう、完全に付いて行けない……。
「山田さんのご趣味は何ですか?」
今度は、イケメン御曹司に訊かれた。
そう。
あたしの名前は、容姿に似合って平凡な山田春子という。
そして、そんなあたしの趣味は、BL漫画の読み漁りだった。
し、しかし、この場面では、言えない……。
「ええっと、え、映画鑑賞です」
あたしは、嘘を吐いて、無難な趣味を答えた。
「あ、そうなんですか! 僕も映画は大好きです。今まで観た中で、一番良かった映画は何ですか? 僕は、タルコフスキーのサクリファイスが好きですね」
えええっ?
タ、タ、タルコフスキー?!
そんなの高尚そうなやつ、全然知らないっ!!!
「えっ? ええっと……」
あたしは、冷や汗が出て来た。
あたしが、観た映画といえば、テレビでしている、ジブリアニメくらいだ。
追い詰められたあたしは、つい言ってしまった。
「と、と、と、となりのトトロとか……」
あああ!
正直に言ってしまった!
最初のコメントを投稿しよう!