エピソードⅢ ご趣味は何ですか?

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エピソードⅢ ご趣味は何ですか?

「まだ、30才前なら、結婚を急ぐ必要はありませんよね?」 「ええ、そうなんですが、父が、会社を早く僕に継いで欲しいらしくて……。早く結婚して、身を固めろと急かすんです」 ふうむ……。 なんか、納得のいく答えだ。 しかし、100回断られたというのは、まだ謎のままだ。 だが、さすがに、その断られた理由を本人に訊くのは、(はばか)られた。 このイケメン御曹司を、意図せず、傷付けてしまうことになる。 あたしは、ぐっとこらえて、話題をお見合いっぽくした。 「都築さんの、ご趣味は何ですか?」 イケメン御曹司は、ホッとしたように微笑んで答えた。 「クルーザーでのカジキ釣りです」 「クルーザーですか……」 はああ……。 あたしみたいな庶民は、到底、付いて行けない話題だ。 「自分で操縦するのも楽しくて……」 「えっ? ご自分で操縦されるんですか?」 「はい。免許を取れる年になってすぐに取りました」 えええ……。 もう、完全に付いて行けない……。 「山田さんのご趣味は何ですか?」 今度は、イケメン御曹司に訊かれた。 そう。 あたしの名前は、容姿に似合って平凡な山田春子という。 そして、そんなあたしの趣味は、BL漫画の読み漁りだった。 し、しかし、この場面では、言えない……。 「ええっと、え、映画鑑賞です」 あたしは、嘘を吐いて、無難な趣味を答えた。 「あ、そうなんですか! 僕も映画は大好きです。今まで観た中で、一番良かった映画は何ですか? 僕は、タルコフスキーのサクリファイスが好きですね」 えええっ? タ、タ、タルコフスキー?! そんなの高尚そうなやつ、全然知らないっ!!! 「えっ? ええっと……」 あたしは、冷や汗が出て来た。 あたしが、観た映画といえば、テレビでしている、ジブリアニメくらいだ。 追い詰められたあたしは、つい言ってしまった。 「と、と、と、となりのトトロとか……」 あああ! 正直に言ってしまった!
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