3.巨大トカゲ

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3.巨大トカゲ

旅の準備はすぐに始められた。衣服から、食料、飲料水など、次々に用意されていく。私の目の前で、一人の年配の女性が、大きなカバンにそれらの荷物を詰めていく。 「あのお、私が行く山は、ここからどれくらいかかるんですか」 その女性は手を止めて、眉根を寄せながら、口を開く。 「十日はかかるんじゃないでしょうか」 「十日……」 「ほら、ちょうどあそこに見えるのが、マウントローズですよ」 女性が指さす方向、丸い窓から、連なった山が見える。それはあまりに遠く、簡単に行けるのではないかという私の考えがあまりに甘いことに気付いた。 「旅立つときには、これも来てくださいね」 女性がそう言って私に見せたのは、ベストのようなものだが、金属でできたそのベストには魚の鱗のようなものがたくさん付いていた。 「えっと、これは」 「こちらはスケイルアーマーです。魔獣から身を守るためには、これを着ていないといけません」 「魔獣……」 その言葉を聞き、胸の中の不安が大きくなる。 「どうじゃ、準備は整ったかな」 部屋に入ってきたのは、ウラナリだった。 「はい。だいたいは」 彼は私の様子を見て、「どうかしたかの」と聞いてくる。 「いや、あの、魔獣って、そんなにいっぱいいるのかな、って思って」 「ふむ」 彼は目を細め、あごひげを撫でる。 「まずは、魔女のことを話さなければなるまい」 「魔女」 「そう、この国の問題は、マウントローズの炎が凍っていることだけではない。雪山の魔女が、魔獣を生み出し続けていることにもある」 「え、じゃあ、さっき見た、大きな蛾もそうなの」 「そうじゃ。そして、魔女は魔獣を生み出し続け、この世界にはあちこち魔獣がいる。うかつに城壁の外に出るなんてことはできなくなった」 ウラナリの言葉に、うなずくことしかできなかった。聞きたいことはたくさんあった。他にどんな魔獣がいるのか、魔獣と出会ってもちゃんと逃げられるのか、そして、魔女とは何なのか。しかし、質問をすればするほど、胸の奥の恐怖が膨らんでくるように思えた。 食事を取り、いよいよ旅立ちとなった。城壁までウラナリや王様に見送られる。 「珠樹よ。この国を救うために、よろしく頼むぞ」 期待のこもった目が私を見ていたが、「分かりました」と、それしか言えなかった。 やがて、フランツの巨体が近づいてきているのが見え、その後ろに三人のこれまた屈強な兵士がいた。 「改めてよろしくお願いします。この国に仕えている騎士のフランツです」 見た目とは似合わない優しい声に、私は少しだけほっとする。 「後ろの三人は、共に旅をする仲間です。左から、ガリ、ガマー、ブラッドです」 兵士三人は、深々とお辞儀をする。 「マウントローズまでの道のり、どんなことがあっても私たちが珠樹様をお守りするので、安心してください」 彼が言うと、それはとても頼もしく思えた。 目の前に、四頭の白馬が連れてこられる。一番大きな馬にフランツが乗り込み、フランツの後ろにくっつくように私もその馬に乗る。フランツの腰に腕を回し、振り落とされないようにする。 「それでは、珠樹様、フランツ、よろしく頼む。必ず、無事に帰って来るんだぞ」 王様に見送られ、私たちは町を後にする。 馬は颯爽と走り、草原を突っ切っていく。心地よい振動が、お尻に伝わってくる。ウラナリの馬よりも乗り心地が良かった。 「珠樹様」 フランツが、風にも負けない声で言う。 「我々はまず、白馬の里を目指します」 「白馬の里」 彼の言葉を繰り返した。観光名所でありそうな名前だなとそんなことを思う。 「そうです。ここから半日もあれば付くでしょう。そこで一泊します」 「そこには何があるの」 「小さな牧場があるところです。そこで、多くの馬が飼われていて、ちゃんとした宿もあります」 「ふうん」 私はテレビで見たような牧場を思い浮かべる。魔獣がたくさんいるなんて脅されたから、不安になっていたけれども、もしかしたら色んな場所をまわって楽しい旅になるかもしれないと、そんなことを思った。 「止まれ」 フランツの大声で、四頭の馬はぴたりと立ち止まる。 「珠樹様、申し訳ありませんが馬から下りていただけますか」 「えっ」 そう言われて、私はゆっくり馬から下りる。 「そこの林に、何かいます」 フランツも馬から下り、じっと林の方を見つめている。目を凝らしてみるが、何かいるような気はしない。 その時、ミシミシと音がしているのに気付いた。初めは何の音か分からなかったが、しばらくしてその音の正体が分かった。木が折れて、倒れる音なのだ。 何本かの木が一斉に倒れて現れたのは、大きな顔だった。 「恐竜?」 私は思わず叫んでしまった。緑色の、巨大な顔面、それに続いて、大きな胴体も現れた。林の中から出てきたのは、恐竜ではなかった。それは、象よりも体の大きな、トカゲだった。
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