2.予言の少女

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2.予言の少女

おじいさんと私が乗る馬は、草原をものすごい速さで駆け抜けていた。風を受け、私の髪の毛がバサバサとなびく。私はおじいさんの腰に手をまわし、馬から振り落とされないようにしがみついていた。 頭の中には、先ほどのおじいさんの言葉が繰り返されていた。春が来ない国、凍りつく町、そして、言い伝え。黒髪の少女が笛を奏でれば春が訪れる、それはもしかして、私のことなのだろうか。そんなことを考えていると、心臓がまた一段と大きく動き出す。 「もうすぐ城につく」 おじいさんはそう言ったが、あまりに揺れが大きくて、私は返事をすることができなかった。 やがて前方に巨大な壁が現れた。中学校の校舎ほどの高さもありそうな白い壁には、重々しい見た目の門があり、その前には鎧を身に着けた二人の兵士がいる。おじいさんが手綱を引くと、兵士のすぐ前で馬がぴたりと足を止めた。 「名を名乗れ」 兵士は私達に槍を突き出す。そんな状況の中、おじいさんは「ほっほっほ」と軽やかに笑い声をあげる。 「私はウラナリだ。森の小屋に住む、しがない老人じゃ」 そう言った途端、兵士はぴしっと姿勢を正す。 「こ、これは失礼しました。ウラナリ様、中へどうぞ」 兵士の二人は、力を込めて門を開ける。私たちが乗った馬は、開いた門を堂々と進んでいく。兵士の一人が、「ウラナリ様、お気をつけて」と大きな声を出す。その態度の変わりように、唖然とする。もしかしたらこのおじいさん、すごい人なのかなと、そんなことを思う。 壁の内側には、町があった。まっすぐ続く道の両側に家々が並ぶ。そして、視界の先には、お城があった。テーマパークや、海外旅行の冊子でしか見たことがないような、西洋風の立派なお城だった。 おとぎ話のような城下町を見て、うっとりするのも束の間、あるものが目に入り、私の胸がざわつく。すぐ目の前の家が、氷漬けになっているのだ。 「家が、凍っている」 私の言葉に、おじいさんは「ああ。そうだ」とうなずく。 「もう何年も前から、この国では、家が凍っていくのだ」 凍っているのは、その家だけではなかった。あっちにも、もっと向こうにも、ぽつぽつと氷漬けになった家が見える。街行く人の表情はどれも、沈んでいるように見えた。 「この国の現状が、分かってくれたかの」 「うん」 やがて、私たちはお城の前にたどり着いた。そこにも兵士らしき人がいたけれども、私たちの姿を見てお辞儀をする。 「ウラナリ様。ようこそお越しくださいました。ご用件はなんでしょうか」 兵士が仰々しく言った。 「国王に伝えてほしい。"選ばれし子ども"が現れたかもしれないと」 「ほ、本当ですか」 「ああ、間違いない。この子じゃ」 私は馬から下ろされる。すると兵士はじっと私の方を見る。これだけ見られると、恥ずかしくなってしまう。 「分かりました。すぐに国王様の元へお二人をご案内します」 「いや、わしはいい。寄るところがあるのでな。この子だけ、国王の元へと連れて行ってくれ」 「えっ。おじいさんは一緒に行かないの?」 私が言うと、おじいさんはゆっくりうなずく。 「ああ、そうだ。またすぐ戻ってくるから安心せい」 そう言って、おじいさんはまた馬に乗り、来た道を引き返していった。 「それではご案内します」 私はスタスタと歩く兵士の後ろをついていく。赤い絨毯はきれいで、ホコリ一つなかった。城内の天井はものすごく高かった。天井には絵が描かれていて、そこにいる天使が柔らかな笑顔で私を見ていた。 「ティンク。立派なお城だね。きっと王様もすごい人なんだろうね」 肩に乗ったティンクを見ると、顔をあっちにこっちに動かしていた。 「それではこちらでお待ちください」 大きな扉の前で、兵士が言った。扉の上には「dining room」と書かれていた。食堂、だったっけと、英語の授業で習ったことを思い出す。 兵士は扉の向こう側に行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。兵士の横には、一人の男性がいた。背は低いが、お腹にはたっぷりお肉がついている。赤いマントのようなものを羽織り、頭には金色の王冠が乗っている。きっと、この人が国王なのだろう。なぜかムッとした表情で、兵士をにらんでいた。 「食事中に私を呼びおって。それで、誰が来たって?」 「国王様。ですから、選ばれし子どもが来たと」 兵士が焦った口調で言う。 「今までに何度も来ただろうが。誰一人として違ったではないか」 「ですが、ウラナリ様が、間違いないと、そう言ってまして」 「ウラナリが?」 王様はキュッと目を細める。そして、その両目が私の方に向く。 「黒髪の少女、この子がそうか」 「はい、国王様」 「少女よ、名は何という」 「えっと、蒼井珠樹です」 「それでは早速、試してもらいたい」 さっきと違う王様の力強い声に、背筋がピンと伸びる。 「君が本当に、予言の少女かどうかを」
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