第0話

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「リーゼ、どうしたの?もうお腹いっぱい?」  前世の記憶が蘇って数日。食事の手を止めたリーゼに首を傾げた。  10才の食べ盛りなのにパンとスープを一口だけだなんて……  ハッ!まさか身体の具合が悪いんじゃ……! 「柔らかいパン、食べたいな……」  ぼそっと溢れた呟きに固まった。  食べられるなら何でもいい派の私と違って食事を楽しむ派のリーゼにはこの世界での普通のご飯はお気に召さなかったようだ。  私の料理の腕前が普通以下なのも相まってリーゼに辛い思いをさせてしまっている。そんなの私が許せない!  という訳でパン屋にGO。まだまだお姉ちゃん離れができないリーゼも一緒に。  パンを作る技術も生地を満足に捏ねる腕力もないが知識だけは豊富だからな。製造法を広めて柔らかくて旨いパンを街に浸透させよう。  と、決意したはいいのだが……  1軒目、小娘が何を知ったように言ってやがるとか何とか煩かったので断念。  2軒目、めんどくさそうに門前払いされたので断念。  3軒目、1軒目と同じ理由で断念。  …………… 「リーゼちゃーん、お姉ちゃんのお願い聞いてくれるぅ?」 「うん、もちろん!」  4軒目、リーゼに頼んで店主に関節技を決めてもらいながら製造法を頭に叩き込んだ。  凄いだろう。私の妹、前世で柔道と空手黒帯だったんだぜ。  酵母の作り方から始まり、一次発酵やら二次発酵やらを教えているうちに従順な下僕のようになっていた店主は出来上がったふわふわのパンにびっくり仰天。  ついでにリーゼの好きなクリームパンとピザの作り方も伝授。  まさかチーズが世に出回っておらず酪農家に依頼する羽目になるとは思わなかったが、美味しいピザにリーゼが目を輝かせて舌鼓を打っていたので良しとしよう。  色々作ってもらったんだからと少し多めに代金を払おうとしたら拒否された。至高のパンの製作法を伝授してくれたからお代はいいってさ。ラッキー。  次から代金払うから今後も利用させてもらおうと決めてパン屋を後にした。
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