ゆきやま、ゆきやま。

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 ***  ユウジロウ伯父さんの話を、僕はただただ茫然と聞いていた。彼は、高校生の僕のお父さんのお兄さんである。幼いころからかなり可愛がってもらっている。  去年、伯父さんが雪山に登ったということは知っている。その結果何が起きたのか、ということも。  僕達はてっきり、おじさんがショックで記憶をなくしてしまったのかと思っていた。だから、深くは追求しなかったのだ。しかし。  こうして改めて詳しい話を聞くと思う。伯父さんに、悲壮な色は一切見えない。昔っからの天真爛漫で、明るく元気なおじさんだ。だからこそ異常なのである。 「あの、伯父さん……」  僕は恐る恐る尋ねてみる。 「伯父さんってさ、そういえば。結婚してたっけ?」  僕の言葉に、ユウジロウ伯父さんは目をぱちくりさせて言った。 「は?え?結婚してないぞ、伯父さんは。昔からそういうの興味なくてだなあ。何も、結婚するだけが人生じゃないだろ?」 「……うん、まあ、そうだよね」  彼は、気づいていないだろうか。  確かに今の話を語る折、一人旅をしようと思い立ったと導入で語った。だが。  彼がもし一人だけで山小屋に入ったなら、小屋の管理人のおじさんはあんなことを言うだろうか。 『この山には昔から神隠しの話があって、女性は入らない方が言われてるんだ、お前さんたちそんなことも知らないで入ってきたのか』 『お前さんらもさっさと下山した方がえ。山の神さんは怖いもんでな』  お前さん“たち”。  お前さん“ら”。  管理人さんは、明らかに複数形を使っている。そしてさっさと下山を進めたということは、山の神様の怒りを受ける対象だったということではないか。  そして雪崩が起きた時の、管理人さんと、他の登山客の人の様子。それは、伯父さん以外の人が、“顔見知りの人が死んだかもしれない”と知っていたがゆえの反応だったとしたら。 ――伯父さん、本当に忘れちゃったのか。  本当のことを、僕達はいつまで黙っているべきなのか。  彼が三年前に、会社で知り合った女性と結婚していたという事実を。
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