ゆきやま、ゆきやま。

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 ***  それはそれは、太古の昔。それこそ、天照大御神がいたくらいの昔のことだそうだ。  この山にはそれはそれは美しい男神と女神が住んでいて、二人は夫婦として仲睦まじく暮らしていた。ただ、この女神には少々問題があったんだ。今でいうところのヤンデレっつーか?まあ異常に嫉妬深い性格だったわけだな。  最初は女神も自分の気質を理解して我慢していたんだ。問題は、この男神が男友達も女友達も多い陽キャだったつーこと。仕事に行ってはよその土地でたくさん友達を作り、宴をして帰ってくるような性格だったわけだ。もちろん、妻がいようが、酒の席で複数の男女と友達として飲むだけならそんなに問題にはならないだろう。別にセクハラしてたわけでもなければ、そのまま女友達をお持ち帰りしたってわけでもないみたいだしな。  それでも、段々女神は耐えられなくなった。  他の男友達と一緒であっても女友達と会うたびにハラハラし、仕方なく男神が男友達とばかり遊ぶようになると今度は“衆道を行っているのでは”とさえ疑うようになる始末。ようは、男相手でも恋愛はできるから、男と浮気してるんじゃないかとまで言い出したわけだ。  そりゃもう、男神もたまったもんじゃない。  あまりに嫉妬深い女神に愛想を尽かして、ついに別れの言葉を残して山からいなくなってしまった。女神は嘆き悲しんだ。その涙が大きな川となり、冬には凍り付いて雪崩を起こしてしまうほどに。  泣きつかれて女神が眠って、それから長い長い月日が過ぎて。  女神はある声で目を覚ました。若い男女の声だ。山小屋で、人間の男女が愛し合っていたらしい。――はいそこ、詳しいことは聞かないように。なんだよ、ベッドの上でどんなあれそれしてたか知りたいってか?お前にはまだ早いっつーの、ははははははは。  不幸だったのは、その男ってのがたまたま――女神を置いていなくなった男神とよく似ていたってことだ。  別人だってことはわかっていた。それでも、女神はその男に、自分を捨てた男を重ねてしまった。そして生々しい行為を見て、怒りと憎しみ、悲しみを思い出してしまったわけだな。  怒り狂った女神は女が一人になった隙に、彼女を雪崩で押し流し、氷の下に閉じ込めてしまった。しかもその上で、男の記憶から女の存在を消しちまったっていうんだ。
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