ゆきやま、ゆきやま。

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 まあそんなわけで。 『こりゃまあ……なんてことだ』  小屋から出て、俺達はみんなひっくり返ったもんだ。  不思議だったのは、ここ最近山の周辺は晴れていたってこと。雪は分厚く積もっていたが、昨日も一昨日も晴れかくもりだったし、今日も一日快晴の予報が出ていた。つまり、雪崩が起こりそうな条件ではなかったってわけだ。  幸い、雪崩が埋めちまったのは登山道だけ。既に登っちまった奴らが気の毒だが、少なくとも小屋が埋もれるようなことにならなかったのは不幸中の幸いだった。俺達はみんな、ストーブのあるあったかい小屋の中にいて無事だったわけだからな。  俺は正直驚いたし、頂上に登れなかったのはすげえ残念だと思ったよ。でも同時に、小屋から出た時に見えた景色がものすごく綺麗だと思ってなあ。  まるで絵具で塗ったような、青い青い空。  太陽の光を浴びて、雪がキラキラ光ってな。一部の崖が崩れたせいもあって、視界が妙に開けてて。向こうに広がる町の景色までくっきり見えたんだ。実はちょっと寝坊しちまって、起きたのが午前六時とかそれくらいだったんだが……まあなんというか、心が洗われるような光景だと思ったね。  もちろん、雪崩に巻き込まれて誰か被害に遭っているかもしれないし、不謹慎なのは承知してるんだが。 『はあ……頂上以外でも、こんないい景色があるなんてなあ。写真に撮っておかなきゃ』  俺は思わず、手持ちのカメラのシャッターを切りまくったよ。デジタルカメラしか持ってきてないのが悔やまれた。こんなことなら、ちょっと貯金叩いても一眼レフを買っておけばよかったってな。  俺がテンションマックスで盛り上がっている中、不思議と他の登山客や管理人のおじさんは静かだった。あまりにも綺麗な景色で、自然の神秘に圧倒されて、言葉も出なかったのかもしれねえな。  まあ、どっちみち、こんな状況じゃ上に登るのは厳しい。  俺が予定してたコースは埋もれちまったし、他のルートはちょっとまだ俺の腕じゃ厳しいかなってやつだし……寝坊もしちまったしな。  それで大人しく、この日は下山することにしたってわけだ。他の登山客のおっさんたちもほとんどがそうしていたみたいだぜ。  まあこんなかんじか。俺の、一番最高の雪の思い出ってやつは。  雪山の登山は大変だが、その分達成感はハンパない。タキヤ、お前も訓練したら、いつか一緒に行ってみようぜ、な?
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