○月○日 心配

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「おーい。元気かい?」 「うん元気だよ。おっちゃん、寒いしびっくりするから勝手に開けないでくれないかな?」 「わかったよ。・・・風邪ひかないでね!』 マサオの生存確認だけして、そそくさと逃げるかのように帰っていった。 それにしても壁越しに声をかけるなどやり方はあるだろうに。 この中野という男、『物事を考えずに感情で動くタイプの人間』なのだなと感じた。 『Don't Open!勝手に開けないで。』という貼り紙が目に入りやすい場所にあっても開けてしまう。 それならば仕方がない。モラルもへったくれもないと思うしかないのだから。 そう接するしかないのだろう。 この男がこの先の生活の邪魔にならないか、心配になってきたマサオがいた。 皆が帰り静かになった頃、トシさんから『お礼』と称した差し入れを頂いた。 中身はビールに豚ハラミと焼豚の惣菜だ。 「冷めないうちに食べながら一杯やっちゃってよ。」 「ありがとうございます。こんなにいいのに・・・」 「たまには沢山食べながらやりなよ。じゃぁ、また!」 カツカツカツ・・・ マサオはトシさんの背中を見送った後で、早速ビールの缶を開ける。 プシュッ!という音が空間に響き渡ると同時に、ハラミと焼豚を半分ずつ頂くと、珍しくビールをあっという間に飲み干してしまったのだ。 残りの惣菜は翌日にしようと考えたため、敢えて残した。 少し豪華な食事ができる事にも併せて歓喜した。 アルコールとほろ酔い気分で身体も温まったが、それ以上にトシさんのその気遣いが温かく感じた夜だった。 路上を覆う冷たい夜風が心地よい程に彼の酔い冷ましになっていった。
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