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午後12時。家族連れが小さなファミレスを占領し、あちこちで鳴る呼び出しベルに店員は翻弄される。子どもたちは、無意味な奇声をあげながら、ドリンクバーで奇怪な色をした謎の液体を調合し、満足げに駆けていく。そんな賑やかな店内で、局所的に、異様な緊張感に包まれたテーブルがあった。
「0653……0653……0653……」
俺は大学の『合格発表』のページを見ながら、ぶつぶつと呟いていた。慎重に、ゆっくりと、俺はスマホの画面をゆっくりとスライドする。向かいの席の金原と片山も、身を乗り出して、静かに画面を睨みつけている。
「いけるって」
「落ち着け落ち着け」
二人に励まされながら、俺は必死の形相でスマホを見つめる。金原と片山は、すでに自分の番号を見つけ、合格が確定している。つまり、残るは俺のみである。俺は震える指で画面に触れる。これまでの多大なる努力が、夢のキャンパスライフへと通じるか、はたまた塵と化して風に散るか。そんな重大な分岐点に、今俺は立っている。地獄の釜の上で、宙吊りにされているような気分だ。
わずかに、指を動かす。
0652
おお、というどよめきが起こり、その次の瞬間に、緊張が最高潮に達した。向かいの二人も、固唾をのんで俺を見守る。俺は乾いた唇を舐めて、ふう、と息を吐いた。もう、腹は括った。俺は再び、指をスライドさせる。
0654
「お待たせしました。ミートソースパスタのお客様」
同時に、にこやかな接客スマイルを浮かべた女性店員が、料理を運んでくる。俺たちは皆目を伏せて、死んだように体を硬直させている。数秒間、不自然な間が空いた。それから、かろうじて息を吹き返した俺は、あう、という声にならない声とともに、小さく手を挙げた。
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