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俺は無心で、何の味もしない炭水化物の紐を啜っていた。金森も片山も、一瞬死んだ空気を蘇生しようとしているのか、明るい口調で喋り続けている。
金森は俺の隣に移動してきて、「まあひとまず、お疲れさん」と笑って肩を叩く。俺も強張った表情筋で笑顔を作るが、無論笑っている場合ではない。叩かれた肩から体が崩れ落ちそうな気分だ。
「そういや、俺も中学受験で失敗したなあ。あの時はショックでさあ、家でネットで発表見たんだけど、めちゃくちゃ泣いちゃってさあ。塾に行って報告しないといけないんだけど、そこで先生に会ってまた泣いてさあ……」
なぜかしみじみとした表情を浮かべる片山の自分語りは、とどまるところを知らない。そのうえいくら聞いても、彼の体験談から学ぶべき具体的教訓が一つも浮かんでこない。
彼らが俺を元気づけようとしてくれているのは分かった。しかしどんな励ましも、俺の心に届く前に失速し消滅してしまう。とにかく今は、一人でどこかへ消えてしまいたかった。
結局鬱々とした気分のまま店を出た。近くのコンビニの前に止めた自転車に跨ると、適当な理由をつけて、一人その場を去る。機械のようにペダルを漕いでいると、一年間の記憶が、次々にフラッシュバックしてきた。
金原や片山と駄弁った放課後。夕暮れを遠目に家路につく。つまらないニュース番組を見ながら、家族で食卓を囲む。母は成績表を見てぼやき、父は何も言わず腕を組む。予備校に行く金もなく、夜中に部屋で参考書と睨み合った。試験当日、はらはらと雪の降る朝。「頑張ってね」という母からのメッセージ────
いつの間にか、家族の顔が頭に張り付いて離れなくなっていた。本当に情けない。最悪だ。たしかに、二十四時間常に真面目に頑張っていたわけではない。だが、不真面目だったと言われるのは心外なくらいには、自分なりに努力をしてきた。そう。俺は、努力をしてきた、はずなのに。あいつらは合格で、俺は不合格。
今の俺には、がむしゃらにペダルを漕ぎまくることしかできない。それが、無性に悲しくて腹立たしい。
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