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どうして鶏にばかり縁があるのだろう。
もしや私の前世は鶏だったのかしら?
「陛下の召喚したニワトリに乗って、金枝の森へ向かいましょう!」
「金のニワトリが空を飛んでいたら目立つと思うけれど」
「大丈夫です! 誰も空なんて見上げませんよ!」
ルイは自信満々に言いはなった。
その自信は、どこから来るのだろう。
ネーヴェは悩んだが、金の巨大鶏は人間を乗せて空を飛べるというので、恥ずかしささえ我慢すれば、移動に最適だった。
ふさふさの羽毛に包まれた背中は柔らかそうで、土足で踏み込むのは恐れ多い。ネーヴェたちは鞍の代わりになるような木の板を探し、紐でグリンカムビの背中に固定した。
定員は三名まで。
護衛を連れていく訳にいかず、必然的にネーヴェとアイーダとルイの三人だけになる。
危険な妖精の棲む森へ、三人だけで向かうなんて、無謀も良いところだ。
しかし、金の巨大鶏を見ていると、人間の常識に当てはめて考えるべきではないと思えてくる。
「ええと、ニワトリ様。お名前は何でしょう」
ネーヴェは金の巨大鶏に名前を聞いた。
『我、グリンカムビ』
「ではグリン様と呼びましょう」
『オッケー』
金の巨大鶏は、ネーヴェに呼ばれて喜んでいる。
ネーヴェは気付いていないが、金の巨大鶏は尋常ではない神々しい気配を放っており、正体は分からないものの大物だと気付いたアイーダとルイは少々怖じけ付いていた。
「お姉さまは、最強かもしれませんね……」
「アイーダ、何か言いましたか」
「いえ。準備ができ次第、出発しましょう」
こうしてネーヴェたちは、数日分の食料や最低限の着替えだけを詰めたコンパクトな手荷物を持ち、グリンカムビに乗り込んだ。
金の巨大鶏は、裏庭から颯爽と飛び立つ。
いかなる不思議の力によってか、その鶏の飛翔を目撃した王都民はいなかった。ただ無垢なる子供が空を見上げ「お母さんニワトリが空を飛んでる」母親が「どこ? 何も飛んでないじゃない」と首をかしげたくらいだ。
巨大鶏の羽ばたきは王都を飛び越え、山を越え谷を越え、川をさかのぼる。
グリンカムビの飛翔速度はかなりのもので、数刻経たぬうちに、ネーヴェたちは妖精の鏡があるという森に到着した。
「ここからは歩きですね。女王陛下、グリン様を送還して下さい」
「どうやって送還するんですの?」
「……」
聞き返すと、ルイは固まった。
少し黙考した後、笑顔になって言う。
「グリン様は、護衛代わりになりそうですね。付いてきてもらいましょう」
「送り還す方法を考えていなかったのですね」
ネーヴェは半眼になる。
しかし、どうすることもできないので、グリンカムビには付いてきてもらうことにした。巨大鶏は、木立の間を羽を引っ掛けながら進む。どう見ても窮屈そうだ。
「陛下、すみません。僕すこし用事がありまして……」
「用事?」
「すぐ戻ってきますから!」
森に入ってすぐ、ルイは前屈みになって小走りで去った。
雰囲気で用事の内容を察した女性二人は、黙って彼の背を見送る。
「休憩にしましょうか」
ネーヴェとアイーダは、ルイが戻って来るのを待った。
しかし、小用にしてはなかなか戻ってこない。
「おかしいですわね……」
不穏な雰囲気を感じていると、アイーダが意を決したように立ち上がった。
「お姉さま、ここで待っていて下さい。私は、この森の管理者である妖精と、少し話してきます」
「気を付けて、アイーダ」
「大丈夫です。この金枝の森は、よく知っている場所なので」
アイーダはぎこちない笑顔で言い、森の中に消えていった。
ネーヴェは、一人になってしまった。
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