恋心の自覚

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 国王から罪咎ないことを証明してもらったので、ネーヴェはようやく安心して友人アイーダに会うことが出来た。  王都には有力貴族の別邸が立ち並ぶ区画があるのだが、その近くにある高級喫茶店で個室貸し切りにし、ネーヴェは優雅にアフタヌーンティーを楽しみながら会話に興じた。 「ネーヴェお姉さま、ご無事で何よりですわ!」 「久しぶりですわね、アイーダ」    アイーダは、リグリス州を治めるサボル侯の一人娘だ。彼女は変わり者の侯爵令嬢として知られており、黒いドレスを好んで着ることから「魔女」と呼ばれることもある。  ネーヴェとアイーダは、王都にある貴族の淑女教育を行う学園での知り合った。二人は学園で、白と黒の双璧を為す姫として有名だった。 「お願いされていた調査の結果をご報告しますわ」 「聞かせて頂戴」    広めのティーテーブルの上に、アイーダは調査結果をまとめた巻物を広げる。 「虫の魔物が最初に発生したのは、二年前の春、南のプーリアン州の地方都市ですわ。目撃件数は南から徐々に広まっています」    魔物の虫が現れた最初の頃は被害が少なく、すぐに駆除できるだろうと楽観的な見方も多かった。  しかし、虫があちこちに出没するようになり、被害が明らかになったのが二年前の秋。  冬を越えて春に虫の出現が相次いだ農村を、ネーヴェは水に沈める選択をした。それが去年の夏。  聖女が召喚されたのは、今年の春。王子と言い争って追放されたのが、初夏。まだ一年も経っていないのに、色々なことがあった。 「もう一つ、お姉さまからお願いのあった魔術師の調査ですが……お姉さまのご慧眼どおり真っ黒でしてよ」  アイーダは、虫の分布を記した地図を、扇で示した。 「魔物の発生を地図にすると、奇妙な空白地帯があったんですわ。詳しく調べると、魔物が発生して収穫が激減しているにも関わらず、領主がいつもどおり税の取り立てを行い、何事もないように国に報告していた。彼らは、自分を助けてくれた魔術師を庇ったのですわ」    例の魔術師ガイウスは、病や傷病の治癒に()けており、国王の頭痛に薬の処方を行っていた。そして王の他にも不治の病に侵されているという貴族や、寿命を伸ばしたいと望む貴族に取り入っていた。  魔術師に病気を治してもらった領主は感謝し、自分の領地で魔物の虫が発生したことを隠したのだ。 「目先の利益につられたのかしら……」 「そうですね。自分の領地の民は無限に沸いてくるものと勘違いしているのでしょう。民を大切にしなければ、結局、自分の身に跳ね返ってくるのに」    ネーヴェは怒り、アイーダもそれに同意した。 「この事を王にご報告しないと」 「待って、お姉さま。例の魔術師、ガイウスという男は、雲隠れしてしまっています。犯人不在のままでは、こちらが不利ですわ。捕まえて公の前で自白させなければ」  災いの源が、例の魔術師だとはっきりした今、早急に魔術師を捕らえて魔物を滅する方法を聞き出さなければならない。  しかし、いかなる魔術を使ったのか、魔術師ガイウスの行方(ゆくえ)はようとして知れなかった。
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