恋心の自覚

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 馬車が動き出すと、密室で距離が近いことを今更ながらに感じる。  シエロは膝を組み、ついでに腕組みをして、視線をネーヴェから逸らしている。彼の淡い癖の少ない金髪が、肩を伝って胸元に流れ落ちており、ネーヴェからはその髪と形の良い横顔が見えた。  じっと髪を見る。  女子垂涎のさらさら艶々の髪だ。手入れせずにこれなら、大変羨ましい。  モンタルチーノで別れた時、再会したら髪を結わせてくれる約束だが、まだ有効なのだろうか。 「……」 「……三つ編みでも、なんにでも好きにしろ」    ネーヴェの視線に耐えかねたのか、先にシエロが白旗を上げた。  この男は妙に察しが良い。   「ありがとうございます」    ネーヴェは氷の美貌をゆるませて、荷物からいそいそリボンや飾り紐を取り出した。何種類もあるそれらを横目で見て、シエロがぎょっとした顔になる。   「じっとしていて下さいね」    それからバルドの屋敷に着くまでの間、ネーヴェにとっては天国の時間が訪れた。なお、シエロにとって天国だったかは、分からない。
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