魔術と天使様

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「陛下は、どんな魔術を学びたいのですか」 「そうですね。例えば、流しの水垢を消し去る魔術があれば、是非教わりたいわ」 「ええと……」 「無理でしょうか。魔術も万能ではないのですね」  残念そうにすると、ルイはむっとした表情になった。 「魔術を使いこなせば、流しの掃除など容易いこと。僕が証明し、陛下に教えて差し上げましょう!」  ネーヴェたちは、妖精の鏡を探しに行くことになった。  その道中、ルイに魔術を教わるという約束だ。  妖精の鏡は、金枝の森と呼ばれる場所にあるらしい。金枝の森は、サボル侯爵の領地にある。王都からは馬を休まず走らせて二日掛かる距離にあり、少し遠かった。 「あまり長く王城を留守にする訳にはいかないわ」    魔物の気が変わって暴れ出す可能性もあるし、ラニエリが頑張り過ぎて倒れるかもしれない。身代わりに残してきたフルヴィアも心配だ。  いろいろ不安に思っていると、ルイは「僕に考えがあります」と、ある提案をした。 「掃除より先に、移動に便利な魔術を教えましょう!」 「移動を短縮できる魔術があるのかしら」 「いえ、移動に便利な、例えば空を飛ぶ魔獣を召喚するのです。女王陛下に、是非試して頂きたく」    ルイは自分が召喚するのでなく、ネーヴェに召喚させようとしている。  どうして、そんなキラキラした眼でこちらを見るのかしら。 「魔術に慣れたあなたが召喚する方が確実だと思いますが」 「いいえ、魔術は土地の影響を受けるため、フォレスタでアウェーな僕には大きな魔術を行使しづらいのです。それに召喚する獣は、個人の資質と縁に左右されます。僕は空飛ぶ獣を召喚できたことがなく」    召喚で現れる魔物は、ランダムらしい。 「それは……間違って危険な魔物を召喚してしまわない?」 「天使の加護を得ている陛下を害するものは、現れないはずです」  フォレスタでは、女王であるネーヴェの方が強いのだと力説された。  どうやらルイは、魔術師としての興味から、ネーヴェが何を喚ぶか見たいようだ。  ネーヴェは困って親友に助けを求めた。 「アイーダ、彼を止めて頂戴」 「お姉さま! これはチャンスですよ! 強力な魔獣を召喚して、ルイ殿下をぎゃふんと言わせましょう!」    アイーダは鼻息荒く夢見るような表情だ。  駄目だ。自称魔女の親友は興奮してしまって、話にならない。 「仕方ないですね……」    広大なサボル侯爵の敷地を利用して、アイーダとルイは二人で怪しげな魔方陣を地面に書き始めた。  ちょっと専門的過ぎて付いていけない。  ネーヴェは庭の掃除をしながら二人の作業が終わるのを待った。庭師の老人は、芋虫を取るのを手伝ってくれた品の良い娘が女王陛下だと夢にも思うまい。  正午になり、かなり大規模な魔方陣が完成した。  どれほどの大きさの魔物を喚びだして欲しいのだろう。ネーヴェは魔方陣の大きさと禍々しさにひるんだが、ここまで来たら、やってみるしかないと腹をくくった。 「何をすれば良いのです?」 「陛下、僕に続けて唱えて下さい。……魔の理をもって、天に赦しを請う。我が望み、我が願いを、この地に為さしめたまえ」    ルイに呪文を教えてもらい、ネーヴェは魔方陣に向かって詠唱する。 「示しあらば我が声に応えよ、天を翔る獣!」  地面に刻まれた魔方陣の線が、突如、光を帯びる。  どこからともなく風が吹き、魔方陣を中心に渦巻いた。 「っ?!」    魔方陣の上に、黄金の太陽のような光球が生まれ、みるみるうちに大きくなる。  光球はあっという間に王城の門くらい大きくなり、爆発した。  ネーヴェは目を焼かれないよう片腕をかざし、暴風に立ち向かう。  光が収まった時……魔方陣には、巨大な鳥がうずくまっていた。 『コケッコッコー』 「……」    ずんぐりむっくりとした体格に、特徴的な赤い鶏冠。  弧を描いて流れ落ちる立派な尾羽。  それは、馬小屋より大きな図体だが、控えめに言っても鶏としか言いようのない鳥だった。  羽がところどころ金色に輝いているので、とてもゴージャスな鶏である。 「どうして、鶏……?」 『我、飛べる』    巨大な鶏は、羽をばっさばっさ羽ばたかせて飛べるアピールをした。  呆然としていたルイが、無理やり真面目な顔を作って言う。 「だ……大成功ですね?!」    その言葉に異論しかないネーヴェだった。  
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