洗濯と、選択

10/16
前へ
/225ページ
次へ
(※ミヤビ視点)  行く宛も無いまま、ただ、がむしゃらに走った。  王子に着せられたスカートは裾が長くて走りにくい。 「あっ」    そのせいで、段差で(つまず)き、転んでしまう。  邪魔になったスカートのおかげで、膝小僧に怪我は無いが、咄嗟に地面に手を付いたので、そちらの方が重傷だった。  起き上がろうとすると、頭上に影が射す。 「おや? 見慣れない人種のお嬢ちゃんだ。黒髪は珍しくないが、顔立ちや肌の色がフォレスタ人って感じじゃねえな。しかし、このヒラヒラした服装(スカート)。どこかの金持ちから逃げ出してきた愛玩奴隷か?」 「?!」    人相の悪い男性が、彼女を覗き込む。 「持ち主に返したら、金一封もらえるかな。それか、別な金持ちに売り払った方が儲かるか?」    この人浚(ひとさら)いに見つかったのは、ある意味、彼女にとって幸いだった。男が手早くミヤビを建物の中に連れ込んだので、後を追ってきた王子には見つからなかったのだ。  窓の無い部屋に閉じ込められたミヤビは、体育座りで壁に背中を預け、ひとときの眠りに付いた。  夢の中で、彼女は召喚された場所、あの地下墓地(カタコンベ)にいた。薄暗い地下には蝋燭の灯りが燃え、その光が墓標にあたって、おどろおどろしい影を揺らめかせる。  邪悪な魔術師が哄笑する。 「逃げても構わんぞ。また、代わりの聖女を召喚すればいいだけだ」 「!!」 「だが、そうなれば用済みのお前は」    魔術師は、片手で首を切る動作(ジェスチャー)をする。  ミヤビはぞっとした。   「……おい。起きろ」    肩を揺らされ、目覚めると、目の前には人浚いと、もう一人別な男がいた。人相の悪い人浚いに比べたら、ましな顔つきの中年の男だ。日焼けした、健康そうな肌をしている。 「この娘を売りたいんだが、どこかの貴族に渡りを付けて下さいよ、アントニオさん」 「俺はそういう商売はしてないんだが」 「いや、知り合いで顔が広いのは、アントニオさんくらいで」 「普通に奴隷商人のところへ連れて行けば良いだろう……」 「だって、あいつら怖いし」    金づるになると拾ったは良いものの、中途半端に引け腰な人浚いだった。  ミヤビは完全に目が覚める。  自分の行き先を決めるには、物わかりの良さそうなアントニオがいる、今しかないと気付いたからだ。 「……氷薔薇姫様、ネーヴェ様のところへ連れて行ってください! 私は、あの方の侍女なんです!」 「?!」    口から出任せを言い、必死にアントニオを見つめる。  一か八かの、賭けだった。    
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2071人が本棚に入れています
本棚に追加