洗濯と、選択

12/16
前へ
/225ページ
次へ
(※エミリオ視点)    ミヤビも、ネーヴェも、見つからなかった。  街中を探したエミリオは一旦サボル家に戻り、自分の護衛の騎士をかき集め、外に出た。 「殿下、どこへ?!」 「サボル侯爵に伝えておけ。そなたは約束を破り、ネーヴェを連れて来なかったどころか、屋敷の警備を(おろそ)かにし、我が聖女を失踪させた。もはや信頼に値せぬ。私が王都に戻った暁には、相応の処罰を覚悟せよ、と」    使用人は真っ青になっているが、エミリオは構わず強引に出立した。 「ラニエリ、この辺りに、使えそうな貴族はいるか?」 「……サボル侯爵と仲が悪いのは、チェリテ伯爵でしょうか」    宰相ラニエリの助言に従い、エミリオはチェリテ伯爵を訪問することにした。  使いも先触れも出さずに、直接の訪問だ。  収穫祭(サグラ)の最中だったチェリテ伯爵は、突然の王子訪問に心臓が飛び出るくらい仰天して屋敷に戻り、エミリオをもてなす。 「で、殿下。当家へのご訪問、とても光栄に存じます」 「チェリテ伯爵、あなたの行動によっては、さらなる栄誉を与えよう」    エミリオは、彼に命令を下す。 「今すぐ兵を動かし、クラヴィーアへ進軍するのだ!」 「なんと?!」 「私の元婚約者ネーヴェが反乱を起こそうとしている。よってクラヴィーア伯爵を征伐する必要がある。サボル侯爵にネーヴェの引き渡しを命じたが、奴は私の命に従わなかった。ネーヴェを庇っているとみなし、同罪とする!」 「で、ではリグリス州は……」 「あなたの活躍次第では、サボル侯爵から取り上げた領地を与えることも出来るだろう」 「おお!」    餌を目の前にちらつかせると、命令に戸惑っていたチェリテ伯爵は、急に乗り気になった。 「殿下に、私の忠誠をお見せしましょうぞ」 「期待している」    チェリテ伯爵は、侯爵と違い、言うことを聞きそうだ。  今度こそ、ネーヴェに罰を与えられると、エミリオは思った。   「……では、私は聖女様の探索をしながら、先に王都に帰ります」 「頼んだぞ、ラニエリ」    宰相ラニエリは、仕事もあるからと、王都に戻りたがっていた。  ミヤビの行方も気になるが、エミリオがここで王子の旗を掲げて進軍すれば目立つので、彼女の方から戻って来てくれる可能性も高い。  聖女ミヤビが戻り、悪女ネーヴェを捕らえれば、災厄の魔物は去り、全て丸く収まる。そうに違いない、と彼は自分に言い聞かせる。王子とは言え、国王に無断で兵を挙げる事は叱責されかねない。しかし、エミリオはそれらの懸念より、目の前の分かりやすい標的を追うことに腐心した。
/225ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2070人が本棚に入れています
本棚に追加