洗濯と、選択

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(※ネーヴェ視点に戻る)  王子がクラヴィーア征伐部隊を率いて進軍しているという噂が、リグリス州のサボル侯爵の使いの早馬によって迅速にネーヴェの元に届けられた。  知らせを受け、急遽クラヴィーアの重鎮が集まる会議が召集された。既に、ことはネーヴェだけの話ではなくなっている。  会議に呼ばれたサボル侯爵の使いが、斥候(せっこう)の代わりに状況を説明してくれた。   「兵を出したのは、チェリテ伯爵のようですね。動員しているのは、騎士が十名足らずと、傭兵および一般兵士が百人ほど」    報告を受けた、父を初めとする重鎮たちの顔が(くも)った。 「……どうしよう」    父ノルドが途方に暮れた表情で言う。  そんなに深刻なのかと、ネーヴェは少し不安になった。 「大丈夫なのですか、お父様」 「大丈夫か、だって? 心配はもっともだよ、ネーヴェ。だって、どうやったって……うちが楽に勝ってしまう!」 「は?」    居並ぶ男たちは、重々しく頷いて同意している。  (いか)めしい鎧兜を身につけた老騎士ウーゴが「姫、ノルド様の仰る通りです」と言う。彼はネーヴェが小さな頃、よく剣士ごっこの相手をしてくれた顔見知りだ。 「第一に、戦は地の利が肝要ですが、我がクラヴィーアは高台にあり、それだけでも十分に堅牢です。第二に、たかだか百やそこらの兵で、戦に慣れたクラヴィーアの民をどうにか出来る訳がありません」 「フォレスタはここ十数年、戦争していないからね。王子も用兵の経験は無いだろう。チェリテ伯爵も、経験があるとは思えないなぁ」    ノルドがのんびり呟く。  既に、父親の中では結論が出ているようだった。 「ネーヴェ、殿下を煮くなり焼くなり、お前の好きにして良いよ。はっきり言って殿下は敵じゃない。それよりも、王家への反逆行為だって難癖を付けられて中央から干されるのが面倒なだけさ」 「姫。姫の顔に泥を塗ったあの若造を、どう叩きのめしてやりましょうか。火攻めにしましょうか? 水責めにしましょうか。地面に埋めて釘バットで叩くのも良いですな」    クラヴィーアの勇猛な男たちは、彼らの愛する姫が追放の憂き目にあったことに密かに怒りを抱いていたらしい。  鬱憤を晴らす絶好の機会だと、拳をポキポキ慣らし、眼を獣のように爛々と光らせる。 「まあ、剣呑ですこと。何も戦わなくても良いのでは」    彼らの殺気を見て、逆にネーヴェは冷静になった。  戦いなんて野蛮なことは、愚かな男がすることだ。  切ったはったして、散らかした後片付けは、誰がすると思っているのだろう。 「皆さん、せっかく殿下のご訪問ですもの。盛大におもてなししても、よろしいですか」  冷笑を浮かべて言うネーヴェに、寒気を感じたのか、屈強な男たちは青ざめて首を縦に振った。  
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