葡萄畑を耕していた理由

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「姫、大丈夫だった?」    聖堂を出ると、待っていたカルメラがすっ飛んで来た。   「大丈夫です。シエロ様に会いました」 「ああ、あの旦那、やっぱり聖堂勤務だったの。聖堂の司祭は、天翼教会の超エリートだ。顔がきくのも納得だね」  カルメラの言う通り、シエロが聖堂の司祭なら、やたら広い人脈にも説明が付く。しかし、聖堂の司祭は、聖堂の裏庭に住むものだろうか。  ネーヴェは、別れ際にシエロに渡されたものを目の前にかざす。  聖堂の通行証だと言ってシエロが寄越してきたのは、羽飾りの付いたペンダントだった。  ペンダントはシンプルな作りで、主役は白い羽毛だ。翼の内側から取ったと思われる羽毛は、小さくて柔らかい。  素材は、水鳥の羽だろうか。  いや、違う気がする。  陽光を反射する白い鳥の羽は、銀の粉を振りかけたような光沢を放っている。こんな輝きを放つ鳥の羽は、見たことがない。 「姫、もしかして、それ天使様の羽じゃないかい」 「まさか」    尊い天使の羽をむしって、首飾りにするなんて考えられない。  そう一蹴したネーヴェだったが、羽が普通ではない輝きを放っているので、カルメラの言うことも当たりかもしれないと思った。   「……」    他の場所なら、いざ知らず。天使のお膝元である聖堂で、天使の羽を通行証だと言って渡すなど、普通の司祭であれば考えられない。部外者のネーヴェにだって、それが不敬な行為だと分かる。  それが許されるのは……天使本人だけだ。 「ありえないですわ。そうでしょう?」    シエロは翼も生えていない普通の人間だ。  ネーヴェは不意に浮かんだ推測を、頭を振って追い出した。
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