人が人であるための権利を奪われた世界で

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家の中から出てきた女は、ベアの身なりを見るなり、あきらかに怯えた様子で地面に膝をつくと。 「私、、、病気にかかれなかっただけで、食べないと死んでしまうのです。どうか命だけは許して下さい」 と、目の前に居るベアと言う兵士に向かって何度も命の懇願を始めた。 食べなければ死ぬ。 それは人間ならば当然の事であって、なぜ食べることに対して命乞いのような事をするのかが、ベアにはさっぱり理解出来なかった。 それと、彼女が発した病気という言葉が気にかかったベアは、自分達が今居るこの世界で何が起こっているのかの調査も含めて、彼女からこの世界の話をきいてみようと思い付き、まずはベア達が敵ではない事と、自分達は本来この世界の住人ではない事を、ゆっくりと彼女に説明した。 その後の詳しい説明は省くが、彼女はどうやら自分達の事を信じてくれたようで、ベアを含めたベア隊の全員を家の中に招き入れてくれた。 すると家の中にはもう一人、彼女とさほど年が変わらなさそうな男性が居て、やはり彼も若干我々を警戒しているようなそぶりを見せながら、しかし彼女と同様に我々に好意的に接してくれていた。 ベアは早速この二人からこの世界についてあれやこれやと聞き取りを始める。 その聞き取りの結果分かったことは、彼女達の世界では、数年前にとあるウィルスのような物が政府によってばら撒かれ、それに感染すると、仮に永遠に食事をしなくても、太陽の光から生命に必要なエネルギーを得る事が出来る体へと、強制的に変化してしまうらしいという事だ。 この世界の政府は、国民をウィルスに感染させる事で、国民に食事をする権利と行為を禁止する法案まで作って、国民が食事を取ることを禁じたのだと言う。 なぜ物を食べることを禁じたのかと言う理由は、今の所定かではない。 しかし、政府がばら撒いたウィルスは万全な物ではなく、中にはこのウィルスに感染しなかった者も居たようだ。 ウィルスに感染しないと言うことは、当然食事をしなければ死んでしまう。 だから感染しなかった彼女達は、法律に背く事になるのを承知で食事を続けていたのだと言う。 結果、食事を摂ると言う行為を摘発された彼女達家族は政府軍によって襲撃され、運良く逃げ出せた彼女以外の家族は皆殺しにされたらしい。
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