4. 雨上がりの邂逅

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

4. 雨上がりの邂逅

 太陽が地面を照らし、雨の名残がキラキラと光っている。夜間出勤から帰ってきたばかりでお疲れなのだろう誰かの(いびき)。朝から元気に駆け回る子供達の声。風に乗って運ばれてくる正体不明の悪臭も、慣れれば懐かしさすら覚える。貧民街にも清々しい朝が来た。  日が差し込むと同時に目が覚める。ゆったりと体を起こすと、大きな欠伸と共に一つ伸びをした。身体のどこにも不調は見当たらない。昨夜雨が降っていた割によく眠れたようだ。  貧弱な家だから光を遮ってくれるものが少ない。天と共に目覚めるのは悪くないけれど、雨は凌げないので困る。昨夜は雨も風も弱かったため、天井だけ板を重ねれば雨に打たれることはなかった。だが横殴りの雨が降った時はさすがに手の施しようがない。だから、家の中で唯一建て付けがいい物置で寝るか、マスターの家へお邪魔している。どちらも悪くはないが、自分家の布団に比べるとやはり劣るところがある。  一先ず今夜は安眠できそうなのでよかった。  今日は休日。任務も事務仕事も入っていない。食料や日用品の買い足し以外、特に予定も無い。強いていうならば一人で暇を謳歌するつもりだ。  布団を丁寧に畳み、押し入れにしまう。今日は一日天気がいいから後で天日干ししてもいいかもしれない。  少し臭う水で顔を洗い、硬いパンと腐りかけのりんごで朝食を済ませた。  身だしなみを整えるため、いつかゴミ捨て場から拾ってきた古臭い鏡台の前に立つ。言わずもがな俺は美意識が低い。鏡を見てもすることなんて髪を手櫛で整えるくらいしかない。早々に鏡台の前から立ち去る。  今の時間に意味があったのかわからないが、せっかく小粋な鏡台を拾ったのだから使わなくては勿体無い、ということで習慣がついてしまったのだ。  サラリーマンに紛れるためのワイシャツとネクタイも、闇夜に紛れるための真っ黒なジャージも、今日は必要ない。数少ない私服の中から、適当にTシャツとパンツを選ぶ。さっさと着替えてしまうと、着ていた服を水道に持っていく。水と少しの洗剤で乱雑に洗い、力一杯絞った後、よく日が当たる場所に吊るしておいた。  今日の朝支度はこれでお終い。これから貧民街を出て少し歩いたところにある街へ行く。買う物リストは作るまでもない。安い物を適当に買うだけだ。  大したお金の入っていない財布と折りたたみ式の携帯電話をポケットに入れる。 「行ってきます。」  誰に言うでもなく呟いた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!