2. 雨乞いの贖罪

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 俺は殴る手を止めた。少年の方へ近づくと、少年の体がビクッと震えるのが見え、俺は自分の行動を悔やんだ。幸い、少年は逃げ出さなかった。 「こ、殺したのか?」 「いや、まだ死んじゃいねぇ。…怖いもの見せちまって悪かった。」  少年は声を震わせながらも、しっかりと俺の目を見て言葉を交わしてくれる。 「ううん、助けてくれてありがとう。」  礼を言われると、悪い気はしなかった。怯えながらもきちんと礼を言うあたり、案外義理堅い性格なようだ。見捨てずに助けた甲斐があったと思う。だが怖がられっぱなしは気に食わない。少年の緊張を解きたくて頭を働かせる。 「この前見逃してやったことも入れると、貸し二つだな。」 「え、見返りが必要なやつだったの?僕は怖い思いをしたからチャラじゃないの?」  ニッと笑ってそう言うと、少年は間に受けてあたふたし出した。その様子が滑稽で可愛らしくて、思わず笑ってしまう。その時はまだ、俺が少年に心を開きつつあるということには気付いていなかった。 「ふはっ冗談だ。俺がしたくてしたことだからな。」 「そうだね。僕は君の獲物らしいからね。」  先刻の俺の発言を持ち出され、心臓が跳ね上がった。深い意味はなかったのだが、あまり気持ちのいい言葉ではない。怖がらせてしまったかもしれないと思い、焦って少年の方を見る。少年は俺の方を見てくすくすと笑っている。冗談で返されただけだとわかって安堵した。 「特に意味はなかったんだが、悪りぃ。」 「ふふっ。別にいいよ。」  少年が笑う。俺に対する恐怖心は薄くなっているように思われた。だが俺は少年に聞かなければならないことを思い出した。折角良くなってきた雰囲気が悪くなるかもしれないが、言わないと気が済まない。できるだけ怖くないように心がける。 「ていうかお前、なんでこんな時間に歩いてんだよ。この前忠告したよな?」  少年は決まりが悪そうな顔をした。俯き、黙り込む。それから少しして、か細い声で呟いた。 「ごめんなさい。でも、帰りたくなかった。」  少年の小さな叫びは俺の耳にしっかりと届いた。俺は少しだけ考えた後、少年の手を引いて歩き出した。何も言わない俺に、少年は困惑している。 「なに、してるの?」 「帰りたくねぇんだろ?俺が付き合ってやるよ。」  少年の息を呑む音が聞こえた。表情は見えないが、きっと見られたくもないだろう。何があったかも聞かない。家に帰れなんて言わない。弱ってる奴に口出しするのは野暮だろ?歩き出したはいいものの特に行く当てもなく、近くの公園に入る。全く、格好つかねぇな。 「公園なんて、子供みたいだなぁ。」 「夜の公園もいいじゃねぇか。」  俺は目についたブランコに座る。夕方降った雨のせいで地面に水溜まりができていたが、ブランコは乾いていた。ブランコなんていつぶりだろう。少年もつられてブランコに座る。地面を蹴って音を立てながら漕ぎ出した。俺も漕いでみる。静かな公園にブランコの音と二人の声だけが響く。
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